住宅街には全くも合わないような、いい雰囲気でいい景色の見える公園がある。
さらさらとした風に前髪を崩される。風に微笑むしかない。
静かにふんわりと光る時計は深夜の2時を指している。
......出所したと言うのに、なぜ私はタバコを吸いながらBL小説(激しいタイプの)
なんて読んでいるのだろうか。口にはタバコ、右手にはBL小説、左手には8時に買ってきたファストフードの店のポテトとオレンジジュースがある。100%だから、意外と喉がイガイガしてくる。口直しにさっきほうじ茶も買ってきた。
はぁ、なんで私はここにいるのだろう。名前も知らない星へとため息をつく。
今の政府はどうにかしてるよ。生活保護、まともに受けられないし、保護司だって少ない。
ま、こんなのに付き合ってる暇もないか...それよりは家族といた方がいいよな。
自分が悪いからね。仕方ないさ。
暑い夏と言うのに、寒い。氷を噛み砕いたせいで寒い。
あぁ、これはこれは。潮風だな。寒い寒い。
ジュースだけ残っている。
「ゲエ゙ッ!?ゲッボゲボ!?オ゙エ゙エ゙っ...」
100パーのオレンジジュースに殺されかけた。痛い。明日、声出せるかな。
「あ゛ぁ...おええ...痛てぇ...やっぱコーラにすべきだったかな...スプライトがよかったかな。やっぱミルクか?あ゛ぁ...痛い」
誰か、振り向いた?
おっさんだと思われた?自分の咳、きしょいから?自覚はある。
さびに錆びたチェーンのブランコが揺れている。とうに風は止んだのに?
そんな脆くないはずだ。
細くなった目を凝らすと、人影が見える。
子供がいる。なぜこんな真夜中に子供がいるのだ。
ここ最近流行ったボカロ曲を思い出そうとして苦戦した。
これは幻覚だ、幻覚だ...
「あなた、だぁれ?」
ひっ!?これマジで人やんけ!?えぇ!?
「あっ、ごぼぼっ、ごっ...」
ほうじ茶を吹いた
「あっ...すみません...」
「い゛っよ...気にすんな...ぶぇぇ...」
女の子だった。ガキだった。意外にかわいい。小4ぐらいだろーか。
目黒あおいって子だった
「ごめんな...びっくりしちまった。」
「いいよ...大丈夫でしょうか」
敬語とタメ語が入り交じったような感じ。小学生だからまぁ仕方ないかもな。
「はい、質問ね。なんでこんなかわいいキミが深夜に出歩いてるのかな?こんな気持ち悪いバカげた痛い格好してるおねーさんでいーなら話聞くよ。」
「かわいいなんて初めて言われました...嬉しい...!分かった、話すね...」
少し悩んだけれど、簡潔に話してくれた。
それは夜の9時ぐらいの話だ。9時だとしたら、私は自販機でほうじ茶を探し回り終え、買って、ベンチに座ろうとしていた時間だ。
酒の依存症になった父親とネグレクトになった母親の喧嘩だ。毎日してるそう。まだ難しい言葉すら分からない小学生を追い出せというクソみたいな喧嘩をしていたそうだ。親失格だと思う。腹からやり直せと思った。
正直言って私と似たような境遇だったな...ネグレクトも仕方ないらしい。まだ2歳の弟がいるそうだ。顔立ちも良くて、でもよく泣くような子だった。
そっちを贔屓してしまくって、とうとうあおいちゃんの世話すらしなくなった。
毎日父親のサンドバッグにされ、母親には人格すべてを否定され続けてきた。
腕には瓶であるだろうと思わしき傷がある。アザもエグい。
いじめられているのもある。お気に入りのリップを奪われた事も。
何て言うべきなのだ。どうするべきなのかぁ...
「おねーさん家くる?」
「えっ」
「(あ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁ!なんてらこった!くそやろ!また前科増える!)」
「いってもいいの?」
え?いいんだ?と、戸惑いつつ
「いっ...いいけど、私...悪い人だよ?」
「悪い人なの?具体的には?」
「泥棒したし...泥棒したって言うか、コンビニのおにぎり盗んだけど...あおいちゃんとおなじさ、親が酒に依存してたから。悪いことをするしかなかった。でも、幸い、兄が味方してくれた。兄も家にいる。」
さっきからあおいちゃんがあわあわしてる。
「でもね、おねえちゃんもおにいちゃんも悪い人でもいいの。私を守ってくれるような気がして。あ、このピアスかわいい、これかっこいい!」
チャラチャラと耳元と顎を触られる。
「つめたーい!」
くすぐったい。こんな天真爛漫な子を追い出すとか狂ってる。
あおいちゃんとブランコいっぱいに漕いだ。
ちょうど兄が来た。
「おーいかな、ねーねー?今何時だと思ってる?」
「あ、4時だ。」
「あ、じゃねーだろ...はぁ...」
お決まりの台詞を一つ。
「はいはい。」
「いくらさ?団地がトラウマでもさ、フツーに寝ろよな。俺がいるんだし。
これで4日連続だぞ?頭イカれてんのか?眠くなんない?おかしいだろ?
...っと、忘れて悪いね。こんにちゃ!女の子で肩出してる隣の服のおにいちゃんなんだけど、キミ、どうしたの?早起き?」
「かくかくしかじかあとそとさむい」
「へぇ、似てるじゃん、俺ら。」
「家に居たいって。」
「いいよいいよ。俺は大歓迎。...名前は?」
「目黒あおいって言うんだってさ。」
「ほへー、いい名前やん。南原カナ。俺は南原ユウカ。「なんばら」じゃないよ!「みなみはら」だよ!間違えないでねー!」
わしゃわしゃと髪を荒らす
「えへへ」
兄は子供のお世話をめちゃくちゃ任せれる。
「名前、二人ともかわいい!」
「カナ。部屋の片付け、手伝ってもらいな」
「任せてください!」
「こんなかわいい子にまかせられるかあっ!」
「あおいちゃん、こいつのこと、よろしく頼むぞ。俺にもなんかあったら言ってくれよな!」
「うん!」
「今日はいっぱい寝な。学校行かんくていいからな。」
その日から、あおいちゃんは家に引きこもることが多かった。
でも、外は一切怖がることはなかった。
「はいよー逃げないでねー」
「あはは!」
あおいちゃんは、ほぼオールしたってのに、まだはしゃぐ。何て言う気力。
私はユウカに説教をされた。あいつの金を使ってポテトとオレンジジュースを買ったからだ。見つかったか。くそ。悪い人だよ、私は。
あのクソ親はと言うと、学校にすら連絡を入れず、酒と弟ばっかり。捜索すらしない、真面目におかしい親。弟、いいやつに育たねーな。
勉強も、遊びも、夜遊びも、お料理、マナー、スマホの使い方...
全てを教えきった。
自分の子のようにかわいがり、少し厳しめのしつけもした。
あー...でもそんなにしつけはしなかったな。
めちゃくちゃいい子だった。グレたりしなかった。
そんな馬鹿げたことを何年も話したらとっくに20歳になっていった。
兄は29、私は24になった。ピアスは開けたままで、メッシュも目立つが、入れる仕事があったから、面接を合格させ、無事入った。もうEMO系とかその辺は卒業した。じゃなかったら痛いだろ。
私の親は死に、あおいちゃんの親は近所の目があり、通報されたがざまぁみろと思っています。子供を大切にしなかった罪だ
そして、今日はめでたい成人式。
「カナ!ユウカくん!成人式、行ってきます!人の役に立てるように頑張ってきまーす!あ!私ね、司会やるの!あと代表!」
「あおいちゃん!すごい!」
「うん!そしてね、必ず二人に恩返しするね!」
「家、帰ったらオムライス作るからね!」
「待ってる!」
「ねーユウカ、私、ついてっていい?護衛だよ護衛」
「まーいいけど?」
「カナ?まだー?」
「あっ、ごめんごめん。いってきやーす。」
さっきの言葉と矛盾するけど、今日だけ来ていく肩だしの黒い服。日焼け止めをこれでもかってぐらいに塗りたくり、ツヤが出るようにいろいろ塗ってきた。
最初に出会ったときの母親の様に。
...まあ、だろうな「いかつい親だな」とか「痛いなあれ。子供かわいそう」
「かなちゃん?大丈夫?へーき?」
「気にすんなよっ、あおいちゃんがいれば大丈夫だ」
笑い合う私達だが、どこか目線を感じる。
とても悪い顔で見ているような、うざがっているような。睨み返した。威嚇だ。
誰かはわからんけど。
「_____以上です。ありがとうございました。」
会場は拍手に満ちていく。自分の拍手なんか聞こえない。
「ああ、緊張した!」
「偉い偉い!」
ざわめく会場。写真撮影する親子。友達と自撮りする人たち。
「あおいちゃんは__あー...なんでもない」
「友達、あんまりいなかったから、覚えてくれる子もいないし。」
「ほっっっと信じられない!友達まで!?」
「そうなの」
あべし、誰かとぶつかった。
「ごめんなさいっ...って」
「あら、小学校ぶり。どこでなにしてたのかなぁ?」
「ひい!?」
やっぱそうだ。成人式に来ないわけがない。
あおいちゃんが言ういじめっ子達だ。
まずいぞ。まずいぞ!しまった!トラウマを思い出してしまってる!
「ひぃっ...うぐっ...やめてっ...」
周りの人の10、20人は気づいただろうか。
兄貴!お前もついてこいよっ!
「三万持ってこいって言ったよね?その言われたあとにさ、逃げ出すって、中々の度胸だよね?」
「ねー。」
とりまき、ガチウザい。
「かわいい着物で悪いけど、亜里沙、一発殴りなっ!あばら骨折っとけ!」
三人か!?柔道やってたけど三人は専門じゃない!
「あおいちゃんは受け止めた!かなも特別なの、お見舞いしな!」
「兄貴!尾行してたのか!」
「おう!」
「覚悟はいいな美原ぁ!お゙る゙ぁ!!!」
「何で私の名前しってあ゙がぁ!?」
やべぇ失神させちまった
「このまま警察署連れていけ!」
「りょーかい!」
「あとは桝井と仲渡ぉ!いっぺんぐらい死ねぇ!」
「ぐあ゙あ゙っ!」
「あおいちゃんのフラッシュバック、治った!あおいちゃんは空手やってたんでしょ?一発行ってきな!」
着物を全て脱ぎ捨て、ショーパンとシャツという成人式には似合わないようなポップな服装をしてきた。その体型は、全てを鍛えてきたような体。妥協、諦めを捨て、復讐一直線で鍛えてきたような体つきであった。
「おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとう!」
「いけー!」
「ファイトー!」
兄のクソでか声ですべての騒ぎ声が消えた。全てのスマホが私らに向けられた。
警備員も動かない。誰かがスピーカーをジャックしたのだろうか。
やる気が出てくる重低音の曲が流れてくる。
「あおいちゃん!今が変わるチャンスだ!」
あおいちゃんは一向に殴ろうとしない。むしろ、手を差し伸べている。
「もう、昔の自分とは違う。なんなら、人だって殴りたくないよ。私はあなた達とは仲良くなりたくない。けど、助け合えるならなんでもいいよ。」
3人はピクリとも動かない。「あれ?なんで?」
「本当に申し訳ねぇ、正当防衛でキックしたら失神させちまった」
「ヤワだねぇ...」
兄はため息をつくと、会場内は笑いと歓声に包まれた。なんか恥ずかしいな。
「あおいちゃんナイス!」
「二人も頑張った!」
そんな声も聞こえる。
「これ、捕まるんじゃない?」
「一応連絡を入れておくよ...もしもし...警察ですか...?事件です...僕たちがやっちゃったんですけどね...昔のいじめっ子が、私たちを殴ろうとしていて...正当防衛でキックしたところ、失神させてしまいました...本当に申し訳ないです...すぐ来てもらえますか...はい、はい。分かりました。失礼しまーす...はぁ、ごめんよ~
あおいちゃん、こんなめでたい場なのにさ」
「いいよ!念が晴れた!」
「じゃ、帰ろっか。外食しよ!あげたいものもあるんだ」
「わかった!」
拍手に包まれて帰る気分は、ハリウッドスターと同じぐらい嬉しいだろう。
あおいちゃんには、兄と私をイメージしたイヤリングと、ピアスと、バカ高いスイーツを食べさせた。あおいちゃんはめちゃくちゃ満足してた。よかった
そのあと、事件として取り上げられ一部騒動となった。その一件もあり、学校のいじめ隠蔽もバレて、いじめっ子は捕まった。なんていう騒動だろう。
あおいちゃんの親は自ら亡くなったのだ。弟はというと、行方不明のまま。
姉がいることも知らないのだろう。
そしてその話から一ヶ月後。私たちは新幹線であおいちゃんを見送ってあげた。
悲しそうな顔をしていたけど、笑顔で視界から消えてった。
大きく手を振ってた。駅弁、美味しかったかな。
学習机がなくなった部屋には、あおいちゃんの影がどこにも見当たらない。
ほんわかと白い光を放つ幻だけ残っていたような。
空白となった白い部屋で音楽活動を始めた。
今となっては覆面アーティストとして名高くなっている。
いつだって、あおいちゃんは隣にいると信じてる。
そして、高頻度にあおいちゃんと連絡を取っている。
ファン一号になってくれた。あおいさんと呼ぶべきかな。
嬉しかった思い出を、今、全てダイアリーに書いています。
この思い出、墓まで持っていきたいな。
本にもなるのかな
でもなってほしくないな!
血は繋がってないけど、彼女の優しい心なら
心と心が繋がってるようにも思えるよ!
...あおいちゃん、いままでの事、忘れないよ!