その夜、私は三回生の石橋さんのアパートを訪ねた。
彼が私に特別な感情を持っていることは、とっくに知っていた。(なにしろ、彼の部屋にはJUNEが創刊
号から全冊あるのだ)
彼もそれなりに、いい顔と言えたかも知れないが、私にとって彼の性格は甘えん坊すぎた。
そんな彼は昨晩、女装写真会をしたという。
彼は私に女装は、絶対するなと言った。私も飾り物すらつける気はなかったので、
「当たり前だろ。」
と言った。石橋さんはニッと笑っている。
こういうときは、たいてい別の言葉を隠してるのが常だ。
「どうしてそんな事を聞くの?何か隠しているね?」
と質問した。
「別に。」
と言って彼は笑った。
「嘘だね。そんな言い方をするなら、もうここには来ないよ?石橋さん。」
私は彼を睨んで、そう言ってやった。(いつもの事ながら、この方法は効果を示さない)
石橋さんは楽しそうに笑いながらこう言った。
「男が女装するのは醜悪だ。昨日でもう十分だ。もうやることはないだろう。」
「でもな。昨日みんな帰った後で、お前の事を想い出した。」
「お前が女装したことを考えた訳じゃないが、昨日想像したお前は女装しなくてもずいぶんセクシーで
なんて言ったらいいか。俺はオ〇〇ーしてしまったよ。」
私は呆気に取られたが、少し躊躇った後に聞いた。
「たくさん出た?」
石橋さんは、笑いながら転げ回って
「そういうお前が大好きだ!」
と叫んだ。
そして、その側に腰掛ていた三回生の菅原さんが言った。(実は部屋に3人いた)
「そんなに、よかった?」
悲しかった。私は菅原さんが好きだった。彼は美しかった。
肩を越える長く大きな巻き毛と、その長身と細面で色白の顔と良く似合ったサングラスも。その奥の静
かな瞳も。
先刻の言葉が石橋さんではなく菅原さんからでた言葉なら。
私は、読者諸君の大好きな世界に直行したかも知れない。しかし、現実というのは
「よかった。よかった。もう50cmは飛んだね。」
石橋さんの夢のない答え。
「じゃあ、ここら辺の床は危険だな。」
菅原さんの残酷な言葉
「しかも、1度だけではない。」
石橋さんの追い討ち。
こんなものである。石橋さんは私の顔を見て面白がっている。私は沸々と怒りが湧き上がって来るのが
分かった。