がらにもなく・・・ 短編綴ってみました ←ナゼ?
人通りの激しい通り
仕事に疲れたサラリーマンと夜の街にうずもれそうになりながら出勤の足を早める女性達が交錯する繁華街
その通りの一角の
ともすると誰も気づきそうにないほどの細く横に曲がる路地
足を向ける先にはヒトの気配すら感じられない
そんな雰囲気のする道の先に
これから目的とする店はある
看板がないどころか
店構えも普通の民家を思わせる
何の変哲もない平屋造りの棟
ただ一つの特徴といえば
店の入口が
その造りに到底似合うはずのない
重厚なタモの一枚板で作られていることだけであった
そのタモの一枚戸を 少し力を込めて右に引きあける
目前に開けるのは
いつもの見慣れたコの字のカウンターと
マスター・真柄の笑みを浮かべた いつものこの言葉だった
「こんばんは」
真柄はいつものようにグラスを丁寧に磨いている最中だった
「Bar MAGARA」
駅から歩いて数分の場所にもかかわらず
およそこの店を知る輩は少ない
それがまた通う理由(ワケ)でもあるのだが・・・
Bar MAGARAは、すべての席に足の高い重厚なエンジのスツールが置いてある。
入口正面のコの字カウンターには7人
正面が3席、その両脇に2席ずつ
そしてカウンターの両脇に2人掛けのテーブルが1席ずつ
10人も入れば狭さを感じるような店ではあるが
真柄の優しい目と
気配りとそして人柄がいきわたる程度のほどよい空間でもある
Bar MAGARAの楽しみの一つ
それがマスター・真柄の流すBGM
疲れた体を委ねるには少しばかり重いようなナンバー
にもかかわらず、飽きることなくいつもグラスを見つめ続けることができるのは
真柄の必要以上には会話をしない接客と
BGM以外に何もない空間に切り出す
これ以上タイミングのはかりようのないセリフのひとつひとつ
ただそれだけだった
「ラヴ・シュープリームか・・・」
声にならない声を出しながらいつものスツールに腰をおろす
無言の笑顔でコースターを置く真柄
「コーン・ウィスキーのハイボール」
いつもと変わらないオーダー
真柄は無言の笑みをうかべ、そして落ち着いた声でひと言
「かしこまりました」とだけ言うと
ストーンジャグに入ったプラット・ヴァレーをソーダで割り、コースターの上にそっと差し出した
一口 ふたくち・・・
喉を伝い、胃の中に流れ落ちるコーンの香りと炭酸の心地よさを感じながら
真柄にあることを言おうとしたその時・・・
入口のタモの一枚板が開いた
真柄の顔色が少し変わった感じがした
そして、いつも止めることのない
グラスを磨く手が
ほんの一瞬だが止まったようにも見えた
「こんばんは」
いつものように
どんな客にも言うこの店の挨拶を、真柄は同じように入ってきた客にも投げかけた
「どの席にすわれば・・・」
客は若い女性のようだ
真柄の右手は言葉を発することなく、カウンター左サイドの奥のスツールを指していた
女性客も素直に従うように黙してスツールに腰を下ろした
真柄は何も言わず、聞くこともせず
黙って「ドライマティーニ」を女性客に出した
女性客もまた何も言わず、そして何も聞かずに口をつける・・・
女性の目から一筋のなにかが
重力のままに下に落ちた
「なにも変わってないんだね・・・」
そう隅の席の彼女がつぶやいたのを私の耳は聞きのがさなかった
(次号は未定)