三浦祐之著<口語訳:古事記>

◎さて、アマツヒコヒコホノニニギは、麗しい乙女ごに出会った。名はコノハナノサクヤビメ(カムアタツヒメ)。その父オホヤマツミに妻乞いの使いを遣わしたところ、父はとても喜び、姉のイハナガヒメも副え、山ほども盛り上げた、契りの品を持たせニニギのもとへ嫁がせた。

ニニギは、姉のイハナガヒメをひと目見て、醜いと送り返してしまった。

父は怒りを込めて、「娘二人を送ったのは、イハナガヒメは常永久に変わりがないが コノハナノサクヤビメは花が咲くように栄えるが 一方だけなら花は枯れるように散り落ちますぞ」

 

◎コノハナサクヤビメがニニギの前に出て、「身ごもりました」

 ニニギは、「一夜の契りで孕んだのか。わが子ではないはず。そこらの国つ神の子だろう」

 サクヤビメは、「わが腹の子が、天つ神の御子の子ならば 無事生まれます」といい、大きな殿を作り、土でもってまわりをすっかり塗り塞ぎ、火を着け、燃え盛る火の中で三柱の子を産んだ。

 ホデリ:海幸彦。つぎに、ホスセリ。次に、ホヨリ:山幸彦。三人のうち弟が残っていく。

 

◎兄のホデリは:ウミサチビコ:鰭の広く大きい魚や、鰭の狭く小さい魚を獲り、弟のホヨリは:ヤマサチビコ:毛の荒い大きなけものや、毛の柔らかな小さいけものを獲って暮らしておった。

◎兄の海幸彦と弟の山幸彦の話は子ども時代から読み聞かされて親しんできた。弟が兄に、「道具を交換しよう」と持ち掛けたが、弟は兄の道具である“針”を失くしてしまう。「あの針を返せ あの針でないとだめ」意地悪の兄は許してくれないと聞かされてきたが、人の大事な道具を粗末に扱い失くしてしまった方が悪いのでは・・という解釈は無かったのかな。 

 

◎古事記とは関係がないが、“浦島太郎”というおとぎ話がある。

 若い漁師の浦島太郎は、年老いた母と暮らしていた。ある日浜辺で、子ども達が亀を虐めているのを見て、お金を渡し亀を助けてやった。数日後大きな亀が現れ、太郎に恩返しをしたいという。太郎は亀の背に乗り竜宮城へ連れていかれる。竜宮城では美しい乙姫が迎えご馳走や歌舞音曲で歓待してくれた。ある日ふと年老いた母のことを思い出し、地上に帰る決心をする。乙姫様から、「この箱があればまた元の竜宮城に帰ってこられるが、勝手に、絶対に開けてはいけません」という玉手箱を手渡される。亀に乗って元の村に帰ると、村は何百年も経って母の姿もない。太郎は悲しくなって玉手箱の蓋を開けると、白い煙が立ち込め太郎は皺だらけの老人になってしまった。

◎浦島太郎のおとぎ話は万葉集にも似た話があるらしい。浦島太郎の物語は古事記が元ネタの様である。

◎日本書記に“浦嶋子伝説”がある。浦嶋子という若者が大亀を釣り上げると、たちまち美しい女性となり、妻にして二人で海に入ると、蓬莱山(仙人が住む山)に着いた。

◎御伽草子に収録されている浦島太郎は室町時代に作られた。昭和初期の教科書に載せられた。原作では老人になった浦島太郎が鶴になって蓬莱山に飛んでいき、時を同じくして竜宮城の乙姫様も亀に姿を変え蓬莱山に向かい、ふたりはそこで結ばれた、という結末だそうだ。

◎丹後の国風土記:水江浦嶋子はとても美男子だった。小舟に乗って釣りに出掛けたが三日三晩、一匹も釣れなかった。しかし五色の亀を得た。その亀がいつしか美しい女性となった。そして、「私は天上の仙人の家の者:天女である」と名乗った。浦嶋子は歓待され3年間海中の仙人の都に留まった。浦嶋子は故郷のことを思い出し、神仙の堺から俗世に戻ってくる。この3年は俗世では300年であった。「開けるな」と言われていた玉手箱を開けてしまう。「開けてしまうと 二度と会えませんよ」と言われた通り、乙姫とは永遠の別れとなってしまった。