安倍清明従忠行習道語第十六<あべのせいめい ただゆきに したがひて みちをならふ こと>

◎弓削是雄からしばらく遅れ、有名な安倍晴明現れる。安倍晴明は賀茂忠行・弓削是雄に習ったらしい。

◎陰陽道:かつて日本は大陸から仏教と道教が入ってきた。仏教と道教はまったく違うが混ざり合い日本人に受け入れられていった。朝廷は遣唐使を派遣してこの二つの思想を学ばせ、仏教と道教を取り入れていった。仏教はその後大々的に日本に浸透していった。一方道教は寺院や仏像といった形がない故、思想として官に入っていったが・・。陰陽道が道教であった、とは驚き。陰陽道は天文・暦・吉凶を占うということが主なことであった。平安後期になると民間陰陽師が現れ、それら、聖や修験者は、病・物の怪・方角などに携わった。近代でも山伏や修験者が、狐憑きなどに祈祷を行っていた。

 インドで生まれた仏教。中国で生まれた儒教と道教。日本で生まれた神道。仏教は中国で中国的になり日本で日本的になった。儒教と道教も日本で日本的になった。神道はそれぞれ外来思想を取り入れ今の神道になった。  

 この今昔物語のなかにも大聖の話し、天皇に呼ばれ宮中に上がる聖の話が出てくる。オレは聖とは仏教の大僧正だと思っていたが、仏教寺院の中に、陰陽道の中身、神道の中身、儒教の中身が混在していたのかな。山の中の修験者といえども、仏教寺院の中に棲んでいると思っていた。 

 

◎今は昔、天文博士安倍晴明という陰陽師がおった。昔の大家にも恥じぬほどの優れた陰陽師であった。幼い時から賀茂忠行という陰陽師について昼夜分かたずこの道を修業したので、いささかも心もとない点はなかった。

 ところで、その清明がまだ若いときのこと、ある夜、師の忠行が下京方面に出かけたが、その供をして車のあとから歩いているうち、忠行は車の中ですっかり寝入ってしまった。清明がふと見ると、なんといえず恐ろしい鬼どもが車の前方からこっちにやってくる。清明は驚いて車の後ろに走り寄り、忠行を起こしてその旨を告げると、忠行はパッと目を覚まし、鬼の来るのを見るや、法術を使ってたちまち自分も供の者も安全なように姿を隠してしまい、その場を無事通り抜けた。

 

◎立派になった清明のところに、ひとりの老僧が訪れた。お供に十あまりの小僧を二人連れていた。清明が、「あなたはどなたですか」「播磨の国のモノです あなたはすぐれたお方なので 陰陽道を習いたく思っています」清明は僧を見て、「陰陽道の相当の腕を持つ奴だ オレを試そうと来たに違いない」「この法師をなぶってやろう」そう思い、「お供のふたりの小僧を 隠してしまえ」と心中で念じて印を結び、呪文を唱えた。そうしておいて僧には、「今日は忙しいので 後日きてくれ」という。

僧は帰っていったが、二、三町行くと、舞い戻ってきた。「供がいなくなりました 返していただきたい」

清明は、「おかしなことを言う なんで 御坊のお供を 取ったりするのです」

僧は、「どうぞお許しください」

清明は、「よしよし 御坊が わしを試そうとして来たので・・」といって、何かを唱えると、外の方から供の小僧が走ってきた。

僧は、「あなたはすごい これから是非弟子にしていただきたい」といった。

◎またある日、若公達や僧がいて、「あなたは 人を たちどころに 殺せますか」と失礼な話をしてくる。

 清明は、「簡単には殺せません だが少し力を入れさえすれば 簡単に殺せます が 罪なことはしません」

 ひとりの公達が池のカエルを見て、「一匹殺して見せてください」

 清明は、呪文を唱えつつ草の葉をカエルの方に投げやると、カエルはひしゃげて死んだ。それを見て皆は真っ青になって、震えおののいた。

 

◎この清明が、家に人のいない時は、ひとりでに蔀戸の上げ下ろしをした。また、閉ざす人もいないのに、門が閉ざされていたりした。かように不思議なことが多くあったと、語り伝えている。