天文博士弓削是雄占夢語第十五 <てんもんはかせ ゆげのこれを ゆめを うらなふこと>

◎天文博士:律令制の陰陽寮に属し、天文を読み取ること、それを教えることを職務とする教官。

 

◎現代の天文学者が解説:陰陽師は、飛鳥時代から法律で定められた公務員、陰陽寮という機関で働いていた。

 暦を作る。時刻を決める。天体観測に基づき吉凶を占う。天体観測(現代も同じ)に優れたものが天文博士の地位を与えられた。

 当時の天文博士と、現代の天文学者の違いは、占いが大事な仕事であった。そのことは明治時代まで続いた。

◎藤原定家が、「明月記」の中で、陰陽師から聞いたことだが、「平安時代、おうし座に 突然明るい 客星が表れた」この記録のおかげで、1000年前に起きた、超新星爆発のあとだとわかった。

◎当時の天皇が、「頭が痛い」とぼやいていた。それを聞きつけた安倍晴明が、「天皇の前世の人物の骸骨が 岩の間に挟まっている」といい、天皇はそれを探させ、岩から取り除くと、頭痛が治った。

「そらあ うそだ」と言いたくなるが、人の悩みを上手に除いてあげる才能だったのでは。

◎陰陽道:安倍家、加茂家が有名。

◎弓削是雄:ゆげのこれを:当時、夜間に日蝕が発生した、当時もすでにこういうことがわかっていたらしい。安倍晴明が活躍する前の人だったらしい。

 

◎今は昔、伴世継:とものよつぎ:というものがおった。穀蔵院(穀倉院)の使者として、その封戸を徴収するため東国に出かけ、何日かして京に帰ってくる途中、近江の国瀬田の駅:うまや:に宿を取った。

 ちょうどその折、その国の国司が国丁に来ていて、陰陽師の弓削是雄というものを京から招き、大属星:だいぞくしょう(生年によって、その人の運命を支配する星)を祭らせようとしていたが、その是雄がこの世継と同宿した。

 

◎而ルニ、忽(たちまち)ニ悪相を見て、覚めてのち、是雄二伝ク、「我レ、今宵悪相を見ツ。我レ、幸ニ君ト同宿セリ。コノ夢ノ吉凶ヲ占ヒ可給シ(たまうべし)」

 是雄占テ伝ク、「汝ヂ明日家ニ返ル事無カレ。汝ヲ害セント為ル者汝ガ家ニ有リ」ト。

 

◎弓削是雄が、世継に、「明日は家に帰ってはいけない あなたを殺そうとするものが潜んでいる」

 世継、「永らく東国に行っていた たくさんの官物、私物がある 帰らないわけにはいかない」

弓削是雄は、「どうしても家に帰るなら 用事をすませて 最後に弓矢を構えて 東北の隅から入りなさい」

「隅に 隠れている者に向かって 出てこい 射殺すぞ」と、「おのれよく聞け、オレが東国から上京してくるのを待ち受けて、今日オレを殺そうとしていることは、先刻承知だ。とっとと出てこい。出てこないと直ちに射殺してしまうぞ」こういえば、わしの陰陽の術により、たとえ姿が見えずとも、おのずからことが発覚しましょう、と教えた。

 

◎なんと、薦の中から法師がひとり出てきた。世継は従者にその法師を捕縛させた。

 問い詰めたがしばらくは言を左右して白状しない。そこで拷問にかけると、ついに白状した。

 「私の主人にあたる僧が 奥様とねんごろになり 今日帰ってくるあなた様を 殺害せよと言われた」

 世継は、是雄の方に向かって頭を下げ、法師を検非違使に差し出し、妻を離縁した。

 

◎今昔氏:長年連れ添った妻だといっても、心は許してはいけない。女はこういう心をもつ者もいるのだ。

 また、是雄の占いは不思議である。昔はこういう霊験あらたかな陰陽師がおった。