在原業平中将行東方読和歌語第三十五<ありはらのなりひらの ちゅうじょう あずまの かたに ゆきて  わかをよむ>

 

◎出典は伊勢物語。伊勢物語:平安時代の歌物語。実在した貴族、在原業平を思わせる男を主人公とした、和歌にまつわる歌物語集。69段では伊勢斎宮と密通する話。当時伊勢斎宮との密通事件が貴族社会に重大な衝撃を与えた。伊勢斎宮との性関関係を結ぶことは禁忌であった。

 

◎東下り:伊勢物語のあらすじ。主人公は貴族である。

◎昔、男ありけり。自分は都にいても不要な人、もう京を離れ、東の国に行こうとした。ひとりふたりの友と出かけた。地理不案内の者ばかりで迷いながら歩いた。三河の八橋に着いた。八橋とは、河が蜘蛛の足のように八方に分かれている。沢のほとりで馬から降り、乾飯を食べた。カキツバタが美しく咲いていたので、「カキツバタの五文字を 句の頭に置いて 旅の気持ちを詠め」詠んだ歌を聞いてだれもが悲しくなり、涙で乾飯がふやけた。これは古事記にも出てくるらしい、大昔からあるようだ。

 

★からころも つつなれし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ 

唐衣:着つづけて、身体に馴染んだ着物、馴染んだ都の妻、しみじみ、遠くに来たもんだ。

 

◎一行は東に進み、駿河の国に着いた。宇津の山に来た。山道は暗く、蔦や楓が生い茂る。ひどい目にあいそうで心細く思っていると、修行くの僧がやって来た。「どういうわけで こんな淋しいところに 行かれるのですか」と言われた僧を見ると、都であったことのある僧であった。そこで都にいる愛しい人に、手紙を届けてくれと頼んで、詠んだ歌。

 

★するがなる うつのやまべの うつつにも ゆめにもひとに あはぬなりけり

うつ:という名前のところに来て、うつつ:現実、夢の中で恋しいあなたに逢わない。

 

◎富士の山を見る、五月下旬だというのに、雪が白く積もっている。

 

★ときしらぬ やまはふじのね いつとてか かのこまだらに ゆきのふるらむ

 季節を知らない 富士の峰 鹿の子模様のまだら雪

 

◎さらに東に進み、武蔵の国と下総の国の間に、たいそう大きな隅田川がある。一行は、「遠くに来てしまったものだ」と都を懐かしみ、悲しく思っていると、船頭が、「早く船に乗れ 日が暮れる」という。それでもぐずぐずしていると、白い鳥、嘴と足が赤く、カモほどの大きさの鳥、水の上で動き回り魚を食べている。誰も知らなかったが、渡し守に聞くと、「これが都鳥だよ」という。

 

★なにしおはば いざこととはむ みやこどり わがおもふひとは ありやなしやと

 都という名なら、都のことをよく知っているだろう。都鳥よ、恋しいあの人は無事でいるか、いないのか。

 

◎都鳥:ユリカモメ:最近は近所で見かけなくなった。20年ぐらい前には安威川にもたくさんいた、パンくずをほおり投げる人のそばを乱舞していた。京都の鴨川にも無数にいた。毎年のように見ていたこの鳥が、ピタリと姿を見せなくなった、鳥にも、渡りの流行があるのかな。