三浦祐之著<口語訳:古事記>

◎さあ、もう一度初めからと思っている。その前に,先生の能書きをちょっと紹介。 

◎まず先生、古事記は全部漢字で書かれているが、本当は伝承文学、古代の語りの文学だ。

◎古事記の文体は、純粋な漢文体ではなく、和風化した文脈、和語(音仮名表記)で描写される。

◎歌謡が110首あまり出てくる。日本書紀には見られない、叙事的な長編歌謡が入っている。古事記が、韻律性の強い叙事歌謡によって物語を進行させようとしている。

 ここに書かれている歌は難しい。絵「これが 日本語か」という単語・表現が多々ある。2000年前の古代人のしゃべり口調が伝わってくる。ほんとうはまだまだ伝わっていないが・・。

◎古事記には同じような伝承やよく似た登場人物が出てくる。スサノオ・ヤマトタケル・オホハツセワカタケルの三人だ。スサノオとヤマトタケルは溢れる力を自ら制御できず突っ走ってしまう。酒を飲ませて相手を殺したり、相手を倒して火攻めにする、と語られる内容も似ている。オホハツセワカタケルも己を制御できない凶暴性をもち、力で相手をねじ伏せたり、相手をだまし討ちにする。

スサノオは神話的な英雄性があり、共同体に秩序をもたらす。

ヤマトタケルは天皇の命令を受けて遠征し、悲劇的な最期を迎える。

オホハツセワカタケルは、天皇となって国家を支配する。

◎兄妹婚の話が続く。タブーとされる同母兄妹の恋愛結婚が語られる。同母兄妹の相姦関係。

 イザナキとイザナミ。最初にヒルコが誕生したというタブー性が描かれている。

 サホビコとサホビメ。結末は二人の死となり、天皇とサホビメの間の御子ホムチワケは母の罪を背負って、もの言わぬ子として生まれてきた。

 キナシノカルとカルノオホイラツメ(ソトホシ)。キナシノカルが国家と罪びととして流刑になり、追ってきたソトホシと共に死んでいく悲恋物語として描かれる。

 

◎稗田阿礼:「古事記は稗田阿礼の口述を太安万侶が編纂した」と教科書で習ってきた、が、どうも違うようである。天武に仕えていた28歳の阿礼は、「その人となりは聡明で、目に見たものは即座に言葉に置き換えることができ、耳に触れた言葉は心の中にしっかり覚え込んで忘れることが無かった」稗田阿礼という人物を介することによって、歴史は音声を伴って伝えられることとなった。

◎日本書記も古事記も天武天皇の勅語を受けて企てられたものでありながら、日本書記の歴史書の結実構想とは大きく隔たっている。日本書記が律令国家の根拠となる理想の歴史を記述しようと腐心しているのに対し、古事記はそれに背を向けるように進んで行く。古事記には理想の古代国家からほど遠い神や人の行動が描かれている。元はひとつのところから出ているのに、古事記と日本書紀には本質的な異差があるのはなぜか・・。

 

◎同じ天皇からの命令で書かれた、日本書記と古事記だったが。

 古事記は天武天皇の勅語を受けて企てられたものでありながら、日本書記から見える歴史書に比べ構想が大きく異なる。日本書記は、律令国家の根拠となる理想の歴史を記述しようとして腐心している。

 古事記はそこから背を向けるような印象を与える。アマテラスとオシホミミの血のつながらない関係、ヤマトタケルの反天皇的なイメージ、繰り返される内部抗争・・。いずれも古事記の伝承には理想の古代国家からほど遠い神や人の行動が描かれている。

古事記が奏上された8年後に日本書記が奏上されることとなった。

 

◎先生方の論争はいまだに多々あるらしいが、「難しい話は わからない」と捨て置いて、神話として、叙事詩として、なかなか面白くやめられない本でありますぞ。