尾張守〇〇五節所語第四<おはりのかみ〇〇ごせちどころのこと>

◎宿願叶ってやっと国守に任ぜられた老尾張守は、国政に励んで尾張の国を復興し、五節設営の役を割り当てられたが、何分とも宮中の事情に疎く、子女・一門の振る舞いもすべて田舎びていたので、若殿上人の笑いものとなった。その上、ことを好む若殿上人たちのこととて、いたずら心から尾張守の五節所襲撃の計画を立て、予告脅迫したうえで、五節の当日、一同異様な風体をして「ビンタタラ」の歌をうたいはやして押しかけ、尾張守の心胆を寒からしめ、一家をなぶりものにした話。

◎オレも宮中の事情に疎い、どこがどう面白いのか、首をひねりひねり、いろいろ調べ読み進んだ。

◎五節(ごせち):奈良時代以降、大嘗会(だいじょうえ:おおにえのまつり:天皇即位後、新穀を神に供える儀式)および一月の新嘗会に行われた五節の舞を中心とする儀式。

◎五節の舞:十二単を纏った五人の舞姫の華麗な踊り。天皇に見初められるかもという、お姫様の一大イベント。

◎一生懸命仕事をしてく尾張の国を富ませた老国守なれど、「田舎もん 成り上がりもん」と貴族のバカ息子連にからかわれる話。

◎殿上人:9世紀以降、朝廷で天皇の生活の場である清涼殿の殿上の間に昇ることを許された人:三位以上。

◎髪(びん)タタラ:「びんたたらを あゆがせばこそ あいぎょうついたれ やれことうとう」丑の日に常寧殿の廊において、五節所の前で、殿上人らが、「びんたたら」の曲を歌いつつ乱舞するしきたりがあった。

 

◎人をからかう バカにする、なじる、いじめる、人の性なのかこれはあるねえ、オレも昔はギラギラした人生、こういう言動もいくつか思い出される。そのテン、今は無くなった、まったくというぐらいに無くなった、清らかですぞ。

 先日、「田舎もんと言われバカにされた 悔しかった・・」という人の話を聞いた。今でこそ緑いっぱい、自然いっぱいの田舎、と羨ましく思うぐらいだが、オレも、「田舎もんめ」なんてセリフを何度か吐いた覚えがある。オレの母親はその母の時代からの大阪モンだったが、父親は山口県育ち、家庭内でも、「田舎もんめ」的な発言を何度か聞かされた。とくに家庭内の場合は、田舎もんだからという以外に、育った環境、経済力、資質なんどをアゲツライ、口汚くののしる女どもの言葉も何度も口にした。

 今昔物語集のこの話、貴族のバカ息子どもが、出世したが宮中に疎い一族の長、その長老をなぶるのかからかうのか、「腹を抱えて 笑ってしまう 話」とは聞き捨てならない話と怒る話なのか、同じように笑ってしまって今昔の世界にはまるのがいいのか、ま、仕様もない話はいいか。

 

◎「彼ノ五節所ニ行キテ 得意立チ可告(つぐ)キ様は、

◎一人の殿上人が、「うまい方法があるぞ」という。

「どうしようというのだ」ときくと、

「あの五節所に行き、いかにも好意あるような顔でこう言ってやるのだ」

「この五節所を 殿上人がひどく笑っていますぞ。お気を付けなさい。この五節所を笑いものにしようと、殿上人たちがこんなことを企んでいます。それは、ありとある殿上人がこの五節所をおどそうと、みなが紐を解いて直衣の上衣の肩を脱ぎ、この五節所の前に立ち並んで歌を作って歌おうということです。その歌とは。

「ビンタタラ・・ビンタタラの髪は揺り動かせばこそ、歩めばこそ、なんとかわいいこと」という歌です。

この、ビンタタラ、というのは、尾張守さんの毛が薄くて、ビンが抜け落ちているのに、こんなビンタタラで

五節所の若い女の中に交じっておられるのを歌っているのです。

「あゆかせばこそ 愛敬つけたれ」

守が後ろ向きで歩かれる様子が「あて」やかなのを歌っているのです。

◎どうも世辞に疎いと、なかなか理解しにくい人々の心の動き・・かな。