『池波正太郎先生を意識してみました』

そう言って、晩酌のアテに味噌汁を出された。


油揚げ、豆腐、昆布かと思った肉厚ワカメ、じゃがいも、玉ねぎ、なめこ。

ほとんど具な味噌汁。
食べる味噌汁というやつ。

申し訳ないが、僕は具だくさん味噌汁が苦手だ。

健康と減塩のため、汁少なめ野菜多めにする理屈は分かる。だけど味噌汁はその名の通り『汁』。汁として存在して欲しい。食べるのではなく飲みたいんだ。

しかもこれは、冷たかった。
さめたとか常温とかいうレベルではなく、冷蔵庫で意図的に冷やしたと思われる冷たさ。

ビールじゃないんだから!
味噌汁は熱いものだろ。
熱々をすするのが醍醐味だ。

不満に思いつつも、豆腐をひとくち。
じゃがいもをひとくち。
なめこをちゅるん。

今日は暑かったから、冷たくて美味しかった。
適度な塩味も酒が進む。
だけど野菜だから重くない。
煮物よりあっさりしていて食べやすい。

ほぼ具を食べきったところで彼女が言う。

『お汁足して、ぶっかけます?』


女神か。

 1日のシメは米がいい。
米と味噌汁、理想的なヘルシーメニュー。

ご飯に味噌汁をかける、味噌汁にご飯を入れる。
どちらにせよこの食べ方には賛否ある。

外では憚られる事も家なら出来る。
そんな姿を見せられてこそ真の関係。
そして彼女はそれを許してくれるどころか、僕に勧めてくれる。彼女の手料理を食べるようになり、初めてぶっかけ飯を食べた時も彼女が勧めてくれたのがきっかけだった。

ぶっかけ否定派の人に問いたい。
ぶっかけの何が悪い!

ぶぶ漬けだってぶっかけだし、卵かけご飯やぶっかけうどんなんて正々堂々と市民権を得ている。

カレーライスだって異国ではライスやナンとルーは別々で出てくるのに日本人はぶっかけた。ぶっかけ飯の仲間として考えるべきではないか。

あ、京都民はお茶漬けを『ぶぶ漬け』と言います。

ぶぶはお茶の事。おぶ=お茶。熱いお茶をフーフーして冷ます音が由来らしいけど、ぶぶ漬けのぶぶはぶっかけのぶからきている、と僕は勝手に思っている。

そんなどうでもいいローカル話も、同じ京都民の彼女となら盛り上がる。



彼女の事、ここでは『彼女』と書いているけど、普段は名前で呼んでいる。『彼女』と書く事にそろそろ、学生気分かよ!と小っ恥ずかしさを覚え始めている。

籍はまだ入れていないけどいずれはそうなる関係だし、僕は彼女を『妻』と表現したい。嫁、家内、女房…いろいろあるけど彼女には『妻』という響きがしっくりくる。

彼女の事、『妻』と呼んでもいいかなっ?