小説本編4.5

《幻光の夢》

ハァハァと息を切らしながら、まだ10代にもなっていない幼い少年は必死に走っていた。
後ろには、この屋敷の警備を任されたスーツを着た警部員が少年を必死の形相で追いかけて来ている。
少年はチッと舌を打つと、背中に吊っていた長い刀を鞘から抜き、全速力で前に迫っていた警部員達を切り捨てた。血のしぶきが上がるが、少年はまるで気にせず、走り続ける。
そして、しつこく追い回す後ろの警部員達をまくために屋敷の角を曲がり、身を隠す為、その辺の部屋に、人がいないか確かめてからドアを開け、中に入る。
部屋の中を見て、少年はこの風景に驚愕した。

少し悪臭のする薄暗い部屋には、幼い少女がいた。
まだ、8歳程の幼い少女。
その少女の両手には、鎖がつけられていて鎖は壁の高い位置で固定されてある。そのため、少女は座ったまま両腕を上に挙げるかたちとなっている。
顔はだらんと垂れており、おまけに薄汚れた布を着ているので、生気が全く感じられない。

少年が部屋に入ってきたのにやっと気付いたのか、少女がゆっくりと顔を上げた。
その表情に少年はひどく打たれたような感覚に陥った。

全てを諦めたーーーそんな表情。
少年を見上げた瞳には少年はおろか、なにも映ってはいない。
そんな少女はまるで籠の中の鳥だ、と少年は思った。その羽根で大空を翔るはずであったのに、籠がある為に飛ぶことを諦めた、哀れな鳥。

「………君の名は…?」

いつの間にか少年はそんな事を少女に聞いていた。
少女はしばらくなにも映ってはいない、瞳で少年を見つめていたが、ゆっくりと首を横に振った。

「…な…い……」

「…そうか。……じゃあ、君は今日から…飛鳥(あすか)だ」

少年は何故かこの少女をここから出したいと思った、羽ばたいて欲しいと。何故かはまるでわからない。ただ、外の世界を見せてやりたい、諦めるのはまだ早いと、少女に伝えたかった。
少年は追われているのも忘れ、優しく少女の頬に触れた。
少女はビクッと身体を震わせながらも、口を開いた。

「…あす……か…」

少女はそう繰り返すと、初めてその瞳に少年の姿を映した。

その瞳をみて、少年は優しく少女に言う。

「俺の名は瞬だ。…よろしくな。…飛鳥」

その言葉に少女は生まれて初めて微笑んだ。












『隊長…!聞こえますか!?』

その通信機からの声で瞬は目を覚ました。椅子に座っていたら、ついウトウトしてしまい、寝てしまったようだ。
確か、夢を……

『隊長!聞こえますか!』

その声で我に返る。

「…柚木か。どうした。」

『緊急事態です!至急、第二会議室まできて下さい!!
あの少女が、かよさんを人質に取りました!』


ややこしくなってきたので紹介いたします音譜




本宮瞬(もとみやしゅん)

17歳の男子高校生。
すずらん隊の隊長を務める。



桐山かよ(きりやまかよ)

17歳の女子高校生。
2年前までは、戦闘員だったがある理由でオペレーターに。




星野直樹(ほしのなおき)


13歳の男子中学生。
戦闘員で、抜群のセンスを持つ、スナイパー。




松本弘也(まつもとひろや)



17歳の男子高校生。
ハンドガンを使うすずらん隊の戦闘員。ひょうきんな性格だが、やるときゃやる。





遠藤柚木(えんどうゆずき)



18歳の女子高校生。
機械類の技術が飛び抜けて上手い。
すずらん隊のオペレーター。
清楚で上品。




矢桐川勇介(やぎりがわゆうすけ)




18歳の男子高校生。
クールな性格ですずらん隊のみんなとなかなか馴染もうとしない。
剣を使う戦闘員。




謎の少女

如月明日歌(きさらぎあすか)


16歳の少女。
研究所から怪我をおいながらも、凄まじい速さで出て来た謎だらけの少女。
小説本編4

「この女の子は、一体何なの?」

そう、呟いたのはすずらん隊オペレーター、桐山かよだった。
赤髪を無造作にまとめ、冬だというのに半袖ミニスカと言う出で立ちだ。
ソファの肘掛けの部分に座り、ソファで寝ている少女を横目で見つめている。

「なんでも、研究所から出て来たらしいよ。ものすんごい速さでね。」

そうにやけながら話すのは、すずらん隊、戦闘員松本弘也。彼は、黄色いパーカーに制服のブレザーを引っ掛け、何故かぶかぶかのズボンを腰パンで履いている。

「ね?そーでしょ?」

不意に彼は、隣にいる学ランの小柄な少年に声をかける。
すると少年----星野直樹は、下げていた顔を上げた。

「…ああ。モデルドッグぐらいのスピードは出てた。」

「うっそぉ。…」

直樹の言葉にかよは驚きの声を上げた。
モデルドッグとは、犬型モンスターのことだ。
ここ最近分かった事だが、どうやらモンスターは地球上の生物をモデルにしているらしい。ということで、そのまま、モデルドッグなどと呼ばさせて貰っている。
もちろん、凶暴性、俊敏さ、体力などの面において格段に上回っているのだが。

「ていうか、そんなこと聞きたいんじゃないのよ。一体この子は何なのかを聞きたいの。……研究所から出て来たって言ってたけど…本当なの?」

かよは、ソファの肘掛けに腰掛けたまま眉を寄せながら直樹を見つめる。

「…本当ですよ。私もカメラで見ていましたから。」

突然、ドアの方から涼やかな声が聞こえた。
そこに立っていたのは、すずらん隊オペレーター遠藤柚木だった。
長い髪を無造作に、高い位置でまとめている姿はどこか物静かな印象を他人に与えた。

「右肩と左ももを怪我していましたが……どうも、モンスターに噛まれた様な跡でした。」

怪我をしたこの少女を、丁寧に治療したのは彼女だ。

「…モンスターにねぇ…。」

かよがため息とともにそんな事を呟く。

「そんなことよりさぁ、……この子、すげぇ可愛いくない?」

そう口を開いたのは、弘也だ。
確かに、この少女は可愛い。
透き通る様な白い肌。地毛であるであろう綺麗な茶髪は、肩より少し長い程度。とじられた瞳はさぞ大きいだろうと予想できる。
だが、この部屋の空気には少し場違いな言葉にかよは呆れた声を上げた。

「…あ、あんたねぇ…。」

「いやいや、マジだって。ほら」

そう弘也は話しながらいまだ目を覚まさない少女を覗き込む。

「16歳くらいかな?」

「…さぁ?」

そう、かよが呆れたように応えた瞬間。

小女が瞼を開けた。