短編小説『影喰いの剣①』



 

プロローグ:影を纏う少年


⎯⎯月光の下、静かな学園の中庭を歩く一人の少年がいた。

深紅の衣を纏い、無造作に流した黒髪が風になびく。


その切れ長の瞳は、闇を見据えていた。

「夏陽」⎯⎯天界から遣わされた剣士。彼の使命は、影を斬り、学園を覆う異形の存在を討つことだった。


だが、それだけではない。

天界から告げられたもう一つの命令。


「学園には影を引き寄せる存在がいる。それを見極め、保護せよ。しかし、決してその力を暴走させるな。」


夏陽は静かに中庭を歩いていたが、ふと立ち止まった。

背中まで届く茶色い髪をなびかせた少年が、月明かりの中で立っていたのだ。


「……君、何をしている。」


声をかけると、振り返ったその少年は微笑んだ。

栗色の髪が月光を反射して淡く輝く。


「少し、月を眺めていただけだよ。」

その笑顔は柔らかいが、瞳の奥には深い影が見え隠れしていた。


「ここは危険だ。」夏陽は冷静に告げる。


少年は肩をすくめるようにして言った。

「君は優しいんだね。でも、大丈夫。僕なら平気だから。」


「君の名前は?」夏陽が問いかける。


「篠宮玲。」少年は微笑みながら答えた。

「君は?」


「夏陽だ。」


そのとき、夏陽の胸に小さな違和感が生まれた。

⎯⎯この少年だ。彼こそ、影を引き寄せる存在なのかもしれない。




 

第一章:影喰いとの出会い


翌日、夏陽は学園の旧図書館に足を運んだ。

天界からの報告通り、そこには怨影――影喰いが現れ始めていた。


黒い霧が渦を巻き、その中心には無数の赤い瞳が光っている。

霧の前に立っていたのは、またしても篠宮玲だった。


「お前、何をしている。」


夏陽の問いかけに、玲は栗色の髪をさらりと振り、微笑んだ。

「ちょっと気になってね。」


「下がれ。ここは危険だ。」夏陽は即座に「明銀」を抜いた。


だが、玲は動かなかった。

「君が影を斬るなら、僕はその動きを止めるよ。」


その言葉に夏陽は目を細めた。

「お前、力を持っているのか。」


玲の瞳が赤く輝き始めた。その瞬間、影喰いの動きが止まり、霧が束縛された。

「少しだけね。でも、これで十分だろう?」


夏陽はその隙を突き、「明銀」を振り下ろした。

刃が影喰いを斬り裂き、霧が一瞬にして晴れる。


戦いが終わった後、玲は微笑みながら夏陽を見つめた。

「君、やっぱりすごいね。」


だが、夏陽はその微笑みの奥に潜む孤独と危険な力を感じ取っていた。