短編小説『影喰いの剣③』

 

第三章:心を開くとき


夜の旧図書館⎯⎯

闇の中で黒い霧が渦を巻き、影喰いがその巨大な姿を現していた。

その姿はこれまでの影喰いとは桁違いの規模と力を持ち、無数の赤い瞳が空間を睨みつけている。


夏陽がその場に駆けつけたとき、そこには玲が立っていた。

背中まで流れる栗色の髪が風になびき、赤く輝く瞳が影喰いを真っ直ぐに睨んでいる。


「……玲!」


夏陽が鋭く呼びかけるが、玲は振り返らず、静かに両手を前にかざした。


「……誰も、もう傷つけさせない……!」


玲の瞳が赤く輝きを強め、周囲に強烈な風が巻き起こる。

影喰いの霧が一瞬で動きを封じられた。


だが⎯⎯


玲の顔には明らかに苦痛の色が浮かび、その体が小刻みに震えている。

額には冷たい汗が浮かび、膝がわずかに揺れ始めた。


「玲!やめろ!」


夏陽が叫びながら駆け寄ろうとするが、影喰いの触手が玲を狙って次々と襲いかかる。


夏陽は「明銀」を抜き、触手を斬り払いながら玲へと進んだ。


「玲!力を緩めろ!お前の体が持たない!」


だが、玲は振り返らない。

「僕がやらなきゃ……僕が止めなきゃ……!」


声は震えているが、瞳は赤く輝いたままだ。



影喰いの霧が玲の力に抵抗し、再び動き始める。

それに対抗しようと、玲はさらに力を放出した。


その瞬間、玲の体が大きく揺れる。

赤い光が強まりすぎ、力が暴走寸前まで高まっているのだ。


「玲、やめろ!」夏陽が低い声で叫ぶ。

「お前一人で背負うな!聞こえてるのか!」


夏陽の声は届かず、玲はなおも霧を縛りつけようと力を込める。


「……お願いだ……止まってくれ……!」


その呟きとともに、玲の体がついに膝をつき、倒れ込むように地面へ崩れた。

だが、彼の力は止まらない。


気絶した玲の体から、暴走した力があふれ出し、赤い光が影喰いと融合し始める。




玲を覆う赤い光と影喰いの霧が渦を巻き、爆発寸前の状況が迫る。


「……玲……。」


夏陽は無言で「明銀」を握り直し、霧の中心に向かって鋭く踏み込む。


無数の触手を正確に斬り払いながら、夏陽は玲に向かって叫ぶ。


「お前がどれだけ無茶しても、俺はここにいる!」


玲の体に迫る影喰いの力を斬り裂きながら、夏陽は彼の肩を掴む。


「一人で全部抱え込むな!」


その瞬間、玲の瞳がわずかに揺らぎ、赤い光がほんの少しだけ弱まった。


だが、霧の力が再び玲を包み込もうとする。

夏陽は「明銀」を高く振り上げ、最後の一閃を影喰いの中心へ叩き込んだ。


銀色の光が霧を貫き、赤い光が完全に消え去った。