『光るコップと海のこと』



とある晴れた春の日の話。君は覚えているだろうか。


私はなぜか、あの何でもない日を今でも微かに覚えている。


ただ、歯磨きをしに行っただけだった。

年中の春、少し早めの時間。

ふたりで水場に向かって、コップに水を汲んでいた。


君が手にしていたそのコップには、セーラームーンのイラストが描かれていた。


そのコップは、妙に光って見えた。

絵柄が好みだったのか、君が持っていたからなのか、クラスが同じだったのかも、今ではもう分からない。


でも、あの瞬間の君は確かに輝いていて、

私にとって最初の“ヒーロー”になった。


君は覚えていないかもしれないけれど、

幼少期の私は、本ばかり読んでいた。


紙の中に閉じこもって、誰にも触れられずに生きていた。


そんな私を、君は何気ない言葉で、まるで当たり前のように、

本の外へ引っ張り出してくれた。


君が教えてくれたセーラームーン。

魔法も戦いも、あの光も⎯⎯


私にとっては、“現実”よりも現実的な救いだった。


たったひとつのコップと、あの春の日に交わしたまなざし。

あの日から、私は世界に少しだけ心を開いた。


きっと君は、昔から、

私には持てなかった強さを持っていたんだと思う。


小さなコップを手にしていたあの日も、

今、誰かを導く立場になった今も。


それは、君がずっと持ち続けてきた輝きだ。


大人になった私たちの目には、

きっともう、前ほど世界は輝いて見えないかもしれない。


それでも、私は「海洋散骨」になる日すらも楽しみに生きている。


私にとって最初の“ヒーロー”へ、少し遅れた祝福を。


代表就任、おめでとう。


こうして書くと、まるで今でも関わりがあるみたいだけれど、

実際には、もう何年もまともに話していない。


私たちはすっかり、別の世界にいる。


それでも、君との思い出だけは、ずっと共にあった。


『おばあちゃんになっても仲良くしてね』って言い合ったの、覚えている?


今の私は、そんな綺麗な言葉はもう言えなくて。


歳を重ねて、

きっとどんな顔だったか、どれくらいの背丈だったか、

名前の呼び方すらも忘れてしまうかもしれない。


それでも、何かの拍子に思い出すことがあったなら、

少しだけ思い出と共に、海へ黄昏れてくれたら嬉しい。


それだけで、私たちは十分だ。


君が持っていた、あの光るコップ。


セーラームーンが描かれていたそれが、

なぜあんなにも輝いて見えたのか。


私は、大人になってやっとわかった。


あの光は、

すべてが期待で溢れていたあの頃の、確かなかけらだった。


きっとあの時から私はずっと、


誰かをヒーローに描くという生き方を、選んでいたんだと思う。


君は昔から変わらず、

私の人生の中で強く、最も輝くヒーローだ。


この広い世界で、君と幼馴染になれたことを、

私はきっと、おばあちゃんになっても大切な思い出のひとつとして、思い出すと思う。


……この話を、幼馴染のあなたへ。


⎯⎯01.





P.S. 少し早いけれど、26歳の誕生日おめでとう。

21日先に生まれた幼馴染へ。

日々がたくさんの幸せで溢れますように。