その時分だ。
それまで、割に健康を気遣い、煙草は勿論、深酒だのギャンブルとは縁が薄い毎日を送っていた。
彼女ができた。
無論、何人目か、だ。
ある時、俺はこんなことを何気なく口にした。
「………60過ぎて仕事がハネたら、
やらなかった不健康なことを
してみたい。
手始めに葉巻をくわえてみたいんだ。
「それ本気なの?」
彼女が俺をしっかり見据えて聴いてきた。
「先の短い人生だ。
色々やつておきたい。 悪いか?
そう言った瞬間、彼女の手にしたコップの水が俺の頭に降ってきた。
ハンカチで顔を拭って正面を向くと、
そこにもう彼女の姿はなかった。
馬鹿馬鹿しいが、それで果てた恋だった。
