名前なんかとうに忘れた
いや、そもそもアイツの名前を聞いたこと、あっただろうか
僕は彼(ヤツ)をアンタと呼び、
彼は僕をカレと呼んだ
お互いの年齢や立場を無視した、
おかしな関係を象徴するようだった
僕がライブ帰りの晩飯に寄るお客で、
彼が店主の関係
時々代金とは別に無言で酒が出てきた
唯一明らかなのは、彼が確実に僕より年上であるということ
そして、間違いなくイイヤツということだった
そのくらい
それだけで良かった
人には色んな出会いがある
出会いの後は、雑音の少ないほど、人間同士は案外うまく行くのかも知れない
それから数日もしないうちに、どこで調べたもんか、僕のもとにEメールが届いた
お前が、大っ嫌いだったあの海な、
あれから俺達が手を掛けて、
キレイにしたんだよ
スキューバのライセンス
わざわざ取ってよ、伊東まで行かされて
音声変換とすぐわかった
口癖は、まんまだ
とにかく見に来い
昔と同じ場所だ、そこで生きてら
深夜だけじゃ食ってけないから
昼間は輪タクで客相手のバイト中
じゃな
腹が決まった
とにかく、行こう
このままで終わらせるのはよくない
僕は、
自分とこの街とのことに、いよいよ落とし前つける時が来た
彼にメールで返した
「忘れ物を引き取りに行きます」
