「孤塁の名人―合気を極めた男・佐川幸義」津本 陽 | のちゃのストーリーストーリー

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創作小説と書評
サブカル全般を気ままに語る

武田惣角や西郷四郎など明治期の武道家を描く小説を数冊読みふけって辿りついたのがこれ。惣角の唯一の後継者で、その高みは師を超えたとも言われる。元合気道の開祖は植芝盛平だが、こちらも天才惣角からの伝授であることが知られている。では、植芝と佐川の関係はどうかというと、植芝は結局、合気開眼まで至っていない、と言うのである。
ともあれ佐川が体得した合気の極意は神業としか表現できない。歳をとればとるほど強くなり、後継との差は開くばかり。ヨボヨボの爺さんが、レスラーのような壮漢を次々とちぎっては投げる。これを素人目で見てると、自ら掴みに行き自ら投げられて受け身をとっているように見えるが、達人に絡んでいくと手がくっついて離そうとしても離れないらしい。凡人にはまったく理解できない境地。まさに、人間の可能性は無限なのかと思わされる。
こういう名人が、ふらりとどこかのリングに立ち、山のような外人ファイターをあっという間にやっつけてくれたらいいのに。外交問題だっていいように転がりそうじゃないか。しかし、自分の力をひけらかす名人がいない、というのも事実。目で見なきゃ信用できない、と、それも人間だからしかたあるまい。