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どこへ走っているのか、分からないまま大野は走った。
カズ…
どこへ行ったんだろうか。
走っても走っても、カズの姿が見えることはなかった。
どこまで走ったのか。
マンションからだいぶ遠くまで来ていた。
気付けば汗をかいていた。
立ち止まって上着のポケットからスマホを出して電話を掛けた。
カズ、出てくれよ。
カズ…
大野はイライラしながらスマホをまた上着のポケットにしまった。
やっぱり…最初から俺の前からいなくつもりだったのか。
今、思えば時々寂しい顔をしていた。
こんなに夢中にさせておいて…
泣きそうになるのをグッと堪えると今度は歩き出した。
しばらく歩くと海沿いの公園に出た。
ここは、よくえりかと来た場所だ。
並んでいるベンチに座ると海を眺めた。
もう、諦めた方がいいのかな。
少し寒いが晴れていて気持ちのよい天気だった。
大野の顔に海からの風が当たる。
寒いな。
カズは大丈夫かな。
寒くて震えてないか。
今頃、どうしているのかどこにいるのか。
さっきからカズの事ばかりだな。
こんなに好きになっている自分が可笑しかった。
カズと出会って俺の世界が変わった。
えりかと別れてパン屋も辞めた。
それは全部カズのためだった。
きっとカズにはそれが重かったのかもしれない。
あいつはあいつなりにずっと悩んでいたんだな。
心のどこかでずっと嫌な予感がしていた。
カズがいなくなることを心の奥では感じていた。
それなのに…
カズの気持ちをもっとよく考えてやれば良かった。
俺の前から消えてしまうことばかりを恐れてカズの気持ちなんてこれっぽちも考えなかった。
バカだな、本当に。
好きな気持ちばかりをカズに押し付けて。
もう、会えないのかな。
最後にもう一度、会いたい。
大野は、ただただ海を眺めていた。
続く