30
大野がソファに座って、カズのいない部屋を眺めているとドアがガチャっと開く音がした。
大野は、思わず立ち上がって玄関まで走った。
玄関で靴を脱いでいる二宮を見つけるとギュッと抱きしめた。
「どこ行ってたんだよ?こんなに薄着で…」
「大野さん…?」
「もう、朝は寒いだろ?」
大野は、そう言ってさらにギュッと抱きしめた。
「大野さん?」
「カズ、黙ってどこかに行くなよ。頼むから…」
大野は体から二宮を離すと二宮の顔をじっと見つめた。
「大野さん、どうしたの?」
「起きたらいないから、びっくりして…」
「ごめん。朝ご飯、食べよ?」
二宮は買い物袋を大野に見せた。
パン屋から出て大野のマンションに向かったが、やっぱり、と踵を返しコンビニへと向かった。
大野さんが、起きてたらこんなに朝早くから外に出てた理由を聞かれるだろう。
コンビニで買い物してきたってことにした方が都合がいいだろう、そう思った。
コンビニで適当に朝ご飯になりそうなものを買った。
「コンビニ行ってたの?」
大野はまた驚いたように二宮を見た。
「あ、うん。冷蔵庫に食べ物ないなぁと思って。お腹空いたしさ。」
「ごめん、冷蔵庫空だったな。」
「うん、食べよ?お腹空いた」二宮はそう言ってニコッと微笑んだ。
大野は、昨日買ってきたものが冷蔵庫にあるのを思い出した。
本当はどこに行ってたんだ、カズ?
大野はリビングのテーブルの前に座ってコンビニの袋からサンドイッチや飲み物を出しているカズに問いかけた。
「なぁ、カズ?」
「ん?」
「本当はどこ行ってた?」
「えっ?コンビニだよ。なんで?」
小さく微笑むカズが愛しくて仕方なかった。
嘘ばっかり言って。
「そっか、ならいいんだ。」
これ以上問い詰めると本当にどこかに行ってしまいそうで怖かった。
俺を見て微笑むカズをずっと側においておきたい。
それは叶わないことなんだろうか…?
どうしてこんなに苦しいんだろう。
一緒にいればもっと楽しく幸せになると思っていた。
けれど、近くにいればいるほど、苦しくなる。
カズ?
どうして嘘をつく?
どうして?
問い詰めない方がいいと思う反面、やっぱり聞きたかった。
「なぁ、カズ。どこ行ってたんだよ?」
二宮は、大野の顔を見て少し真剣な顔をした。
続く