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起きるとカズがいなかった。
やっぱり…
予感は的中したのか。
大野は、ベッドから出てリビングへと行った。
やっぱりいない。
どこ行ったかな…
大野はソファに座って部屋を見渡した。
カズと過ごした部屋が一人になると広く感じた。
こんなに広かったっけ?
大野は大きくため息をついた。
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二宮は、開店前のパン屋を訪ねていた。
トントン
軽く店のドアを叩いた。
電気は付いてるしいるよね…?
もう一度ドアを叩くとバタバタと音がしてえりかが顔を出した。
「二宮くんっ!」
「あ、どうも…」
二宮が軽く頭を下げるとえりかも釣られて頭を下げた。
「朝早くどうしたの?」
「えりかちゃん、少し話し、いい?」
「うん…いいけど…」
えりかは二宮を店へと入れた。
久しぶりに入る厨房からの休憩室。
すでに懐かしかった。
椅子に座ると二宮はすぐに切り出した。
「大野さん、店に戻すことは出来ない?」
「えっ?」
「オレ、店辞めたこと知らなくて。この前初めて知って。その…オレのせいなら…」
「そうしたいのは山々だけど…智くんを店に戻すことは出来ない。」
えりかは下を向いて首を横に振った。
「なんで?」
「ごめん。もう…二人で決めたことだし。智くん…ああ見えて頑固だから。これからはこの店は私が守っていくって、決めたの。」
「大野さんのこと、嫌い?になった?」
「まさか…好きだよ。今でも。二宮くんに取られると思わなかったけど。」
そう言って、えりかはクスッと笑った。
「だったら、、」
そこまで言って二宮は下を向いた。
「二宮くん?」
「ごめん、えりかちゃんから大野さんを奪っておきながら、オレ何 言ってるんだろ…」
「もういいの。好きだけどね、智くんのこと。でも、いいの。気持ちが私に戻ってくることはないのは分かってるから。」
「えりかちゃん…」
「ごめんね。二宮くんの願いは叶えられそうもない。」
えりかは立ち上がって厨房へと戻った。
二宮も厨房へと入った。
「もうすぐ、みわも来るから帰った方がいいかも。」
「えっ?」
「聞いてるよ、みわから。昨日電話があってね。」
「あ…うん。でもあれは…」
「二宮くんって女心分かってないね。そうして欲しいって言われても、ダメだよ、優しくしちゃ。」
「だけど…最後にお願いって…」
「バカだね。みわが余計苦しむ。その気がないなら、ちゃんと冷たくしてあげて。そうじゃないと、みわも吹っ切ること出来ないよ?」
えりかは、二宮を見た。
「オレ…」
「二宮くん?」
「ん?」
「みわのこと、好きになれる?友達ではなくて。恋人として。どう?」
「いや…オレは…」
「智くんが好き?」
えりかは二宮を真っ直ぐに見て聞いた。
「うん…」
「じゃあ、決まり。二宮くんは智くんのところに戻って。みわも、新しい恋始められないから。ねっ」
えりかは、少しキツい言い方だったが最後は少し微笑んだ。
二宮は、店から出て大野のマンションへと向かった。
大野さんが、パン屋に戻ることは出来ないのなら、オレがいなくなればいいんだろうか。
えりかちゃんだって、まだ好きだって言ってたし。
どうしたらいいのかな…?
続く