今日は、あの人の誕生日。
いつものように寒くなった空気の中を歩いてあの人のマンションへ向かう。
思ったより空気は冷たくて吐く息が白い。
いつからこんなに寒くなったんだっけ?
いつも、マンションから車で移動だしほとんど外に出ないから季節感がない。
そっか…
もう11月だもんね。
そろそろクリスマスシーズンにもなる。
それにしても、寒いな。
あの人のマンションまでもう少し。
と言う時にポケットのスマホが震えた。
誰だよ?こんな時に。
ポケットからスマホを取り出して画面を見ると翔ちゃんだった。
―どうしたの?
―いや…智くんの誕生日。プレゼント何にした?
―えっ?誕生日って今日ですよ?まだそんな事で悩んでたの?
―うーん、ちょっとね。どうしようかな?って。
―俺はもう決めたから。翔ちゃんには教えない。
―えぇーー!!イジワルだな、カズは。
―ふふふ。秘密なんです。
俺はそう言うと電話を切った。
教えないもーん。
おおのさんにあげるモノ。
俺も悩んだんだ。
そうこうしてるうちに、おおのさんのマンションに着いた。
実は合い鍵を持っている…なんて事だったらいいのにな(笑)
俺はインターフォンを鳴らした。
朝早いせいか…なかなか返事がない。
しばらくするとダルそうな声が聞こえた。
『はい。』
『あ、開けて?』
『あぁ、カズ?』
『うん』
『開けるからいいよ。鍵も開けておく』
俺はエントランスに入り大野さんの部屋まで行くとインターフォンを鳴らさずにドアを開けた。
「おおのさん?」
そっと、玄関からリビングへと入るとソファで眠そうにしていた。
「おぅ、どうした?」
「ふふ、お祝いにね。」
「あぁ、そっか。昨日LINEでお祝いしてもらったし、わざわざ良かったのに。」
「うん。でも、毎年…こうして来てるしさ。」
俺はおおのさんの隣に座った。
「で?何してくれんの?」
「何って?(笑)もちろん、お祝いをね。」
「おまえ、いっつもおかしな事していくからな。マジックとかしてハト出すとかさ。やめてくれよ?」
「あはは、そんな事しないよ。」
「じゃあ、なに?」
「うん。実はなんにも考えてないの。」
「へっ?じゃあ、何しに来たの?こんなに朝早く。」
「んー、いいじゃん。お祝いの気持ちを持ってきたの。」
「気持ち?」
「そ、気持ち。ねっ?」
「んー、わかんねぇな、おまえは。」
「あ、そう言えば、翔ちゃんから電話があってプレゼント何がいいか悩んでたよ?」
「あ、そうなんだ。」
「うん。」
「ねっ、おおのさん?」
「ん?」
「これ。」
「ん?これ?」
俺が差し出した手におおのさんは、首を傾げた。
「手、触って?」
「?」
おおのさんは、ちょっとビクっとしながらそっと俺の手に手を乗せた。
俺はその手をギュッと握って自分の方へ引っ張った。
「わっ、なに?」
「おおのさん、愛してます。」
耳元で小さく囁くと俺はパッとおおのさんから離れた。
「ふふふ//////」
「えっ?なに?////」
「えっと、気持ちです。」
「はっ?」
「もう、お祝い終わり。二度と言いませんよ?」
「ちょっと、カズ?」
「ポケット見といて。」
「ポケット?」
「あ、俺が帰ってからね。」
俺は急ぎ目に靴を履いておおのさんのマンションをあとにした。
ふふ、気付くかな…?
大野は、二宮が帰ったあと、言われた通りポケットを探った。
あっ…!
また、アイツ…
ふふ、まぁいいか。
カズらしい。
ポケットからは、ハートのエース。
《おおのさん、誕生日おめでとう。愛してます。》
あれ?よく見るとカードは二枚。
もう一枚は真っ白なカード?
ん?
『おおのさん、大好き♡俺の時は現金でいいよ
♡』
ふふふ、カズのヤツ。
誕生日は、来年じゃねぇか。
まぁ、いいか。
可愛いなアイツは。
大野はニヤっとしながらそれを大事に棚の引き出しにしまった。
今まで、カズにもらったモノはここに全部しまってあるんだ。
おおのさん、見たよね?
俺はやっぱり…
ふふ、愛してますよ。
来年は、どうしようかな。
そう思いながらニヤニヤしながら帰り道を歩いた。
それにしても、寒いな。
俺は身を縮めて歩きを早めた。
今日は、誕生日おめでとう。
大野智、37歳。
本当におめでとう。