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『月』翔Side~
結局、楓とは上手くいかなかった。
と、言うか自分から手離した。
海外に戻る前にカズに「楓を頼む」とお願いした。
けれど、カズは「なに言ってんの?逃げてるだけだ」と取り合ってくれなかった。
最後に楓に会った時、楓は俺に何か言おうとしていた。
カズが好きだと言われるんじゃないかと、あの時は怖かった。
フラれる前に俺から手離した。
思うままにしていい、と言ったんだ。
でも、やっぱり…
しばらくは辛かった。
だから仕事に逃げて忘れようとした。
海外から日本への勤務に変わってもカズや楓に連絡することはなかった。
もう何年経ったのか。
もう一度、連絡してみようと思った。
カズや楓に会いたかった。
何年も一緒にいたんだ。
久しぶりに会ったってきっと…
また、元のように戻れる、そう思った。
カズに電話する時、ちょっと緊張して手が震えた(笑)
カズは、変わっていなかった。
昔と変わらず話すことが出来た。
次の週末、二人で会う。
楓のこと、ちゃんと話そう。
そう思った。
電話を切ったあと、マンションの部屋の窓から外を見た。
雨は止んで綺麗な月が出ていた。
季節は秋から冬へと変わる時だ。
俺はしばらく都会の景色と空を見つめていた。
楓のこと。
やっぱりまだ好きだな…
向こうで一緒に暮らしていた時、楓はよくベランダから外の景色を見ていた。
俺を見て笑う楓を時々思い出す。
高校の時から本当によく笑う子だった。
ちょっとドジでさ。
すぐにカズとケンカしていた。
ずっと想ってたのにな。
月が俺を見ているような気がした。
難しいな…恋愛って。
本当に…
俺はしばらく月を眺めていた。
続く