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『笑顔』翔said~
俺は久しぶりに楓のあんな楽しそうな顔を見た気がした。
向こうにいる時はあんな風に笑わなかった。
カズといる時はあんな風に笑うんだな。
俺は楓の手を引いてどんどん歩いた。
「翔くん?」
「翔くん、痛いよ。」
楓が急に立ち止まって俺と繋いでいた手を離した。
「翔くん、手、痛い。どうしたの?」
「ごめん…」
俺はいろいろ考えながらいつの間にか楓の手を強く握っていたみたいだ。
「考えごとしてた、ごめん。送るから。」
「ここからは、1人で帰れるから。大丈夫だよ。」
「ダメだよ。送るよ。」
「でも、ホテルからはちょっと遠いし…」
「じゃあ、ホテル来る?」
「…えっ?!」
「冗談だよ。楓、なんて顔してんの?(笑)家まで送ってくから。」
「翔くん、いいよ。泊まってるホテルに行っても。」
「いいよ、冗談だって。明日も仕事だろ?送ってく。」
「うん…」
楓を送って行く途中何度も後悔が襲った。
やっぱり泊まってるホテルに来てもらえば良かった。
楓の気持ちがどこにあるのか…確かめたかった。
途中まで歩いて途中からはタクシーを拾った。
タクシーの後部座席で楓の手をそっと握った。
「楓?」
「また、会える?」
「うん…」
俺はこちらを向いた楓にそっとキスをした。
楓、本当に俺が好き?
俺のこと好きでいてくれてる?
そう聞きたいのをグッと堪えた。
「翔くん?」
「ん?」
「翔くん、優しいよね。」
「そんなこと…ないよ。」
楓は、少し辛そうな顔をした。
「ううん。翔くん、ずっと優しかったよ。向こうでも。何にも言わなかったでしょ。」
俺はなんて答えていいのか分からずに言葉に詰まった。
「私、やっぱり…」
そこまで言うとタクシーは楓のアパートの前に着いた。
楓は、さっきの言葉の続きを話すことなくタクシーから降りた。
「今日は、楽しかった。ありがとうね。」
「うん。また連絡するから。」
俺もタクシーから降りて楓の部屋の前まで行き部屋に入るまで見届けた。
「翔くん、またね。」
そう言って部屋に入って行く楓を引き止めてもう一度キスしたかった。
抱きしめたかった。
でも…やめた。
さっき、楓が何を言おうとしたのか。
気になったが聞かない方がいいだろう、そう思った。
楓…本当に好きなやつは、カズなんだよな。
その事を言おうとしたのか…?
それとも…?
楓を心から笑顔に出来るのはカズだってことに俺は気付いたんだ。
いや、昔からもうずっと分かっていたのかもしれない。
その事を認めるのが怖かったんだ。
続く