14
目を覚ますと見慣れない天井が見えた。
「あ、二宮くん起きた?」
声のする方を見るとみわがいた。
「えっ?みわちゃん!なんで?」
オレは慌てて起き上がった。
「もう熱も下がったみたいだね。良かった。」そう言ってみわはニコリと微笑む。
「なんで?あれ?どうして?」
「二宮くん、慌てすぎ(笑)覚えてないの?」
「覚えてない。」
オレは病院のベッドの上にいるらしい。
病室にはみわがいてベッドの横にある椅子に座っていた。
「私が車で運んだの。」
「えっ?オレどうしたの?」
「すっごい熱で大変だったんだよ?本当に覚えたないんだ?」
みわが、クスッと笑った。
「大野さんは?」
「お店だよ。」
「あ。そっか。みわちゃんは?行かなくていいの?オレは…」
「大丈夫。今日は定休日だよ。昨日ね、大野さんから電話もらって。車持ってるの私だけだし。病院まで運んで欲しいって。」
「そうだったんだ。」
あれ?オレ、本当にどうしたんだっけ?
大野さんがいて…それで…
オレは、とんでもないことを思い出した。
大野さんに「好きだよ」って言ったかも…!
ど、どうしよう。
なんか、どうしよう…
「二宮くん?」
みわが二宮の顔を覗き込んだ。
「えっ!なに?」
「どうしたの?顔色悪いよ?また、熱でも上がった?」
みわが、おデコに手を当てた。
「んー、熱はもう大丈夫みたいだね。」
「あの…オレ結局なんだったの?ただの風邪じゃないよね?」
「肺炎…本当に大変だったの。うなされてるし。」
「あの…オレ何か言ったりしてた?」
「なにか…って?」
「いや、言ってないならいいや…」
「そう?」
「うん。」
みわは少し不思議そうな顔をした。
「ねぇ、二宮くん?」
「なに?」
「大野店長といつから親密になったの?」
「はっ?えっ?」
オレはドキッとした。
「だって、病院に来るまで〝カズ、カズ″って。前から名前で呼ばれてたっけ?」
「えっ?」
そうだったんだ。
大野さん、カズって呼んでくれてたんだ。
遠い意識の中で聞こえた「カズ」はやっぱり大野さんだったんだ。
夢じゃなかった。
でも…
どうして、急に「カズ」なんて。
「みわちゃん、オレ家に帰りたい。」
「二宮くん?急にどうしたの?」
「うん。ここじゃ落ち着かなくて。」
「そっか。でもきっと夕方には帰れるよ。それより!二宮くん、ちゃんと食べてたの?栄養も摂ってなかったから、風邪が悪化したんだよ?」
「そう言えば最近、あまり眠れてなかったし、ちゃんと食べてなかったかも…」
「もう、しょうがないな。今日は帰ったら私がご飯作ってあげる。」
「えっ、いいよ。なんか悪いし…」
「もう、何言ってんの?!そんな事言ってる場合じゃないでしょ。まずはちゃんと食べないとね。」
それから夕方になり熱も上がって来ないと言うことで家に帰れることになった。
オレはみわちゃんに送ってもらってアパートへと帰った。
アパートへ帰ると玄関の前に大野さんがいた。
「大野さん、どうしたの?」
オレは嬉しくなって大野さんの姿が見えると思わず駆け出した。
「あぁ、心配だったから。もういいの?」
オレと目を合わせないようにしてる?
「うん。熱も下がったし。大丈夫。」
「そっか。良かった。みわちゃん、ありがとね。昨日は急に電話しちゃってごめんね。」
「いえ、大丈夫です。」
みわは、本当は二宮の世話が出来たのが嬉しかった。
でも、やっぱり…
二宮はきっと大野が好きだって、そう思った。
玄関にいる大野を見つけた時の嬉しそうな顔が今までに見たこともないくらいの笑顔だった。
二宮くんってあんなに可愛い顔して笑うんだ…
ちょっとショックだな。
私には見せない笑顔だもん。
「みわちゃん、どうした?」
大野が顔を覗き込む。
「あ、いえ。なんでもないです。大野さん来たなら私、帰るね。」
みわは、くるりと後ろを向いて帰ろうとした。
「待って、みわちゃんも一緒に。材料買ってきたんだ。」
大野は買い物袋を少しあげてみわに見せた。
「あ、夕飯?」
みわは自分が買って来た材料を思わず背中に隠した。
「うん、夕飯。みわちゃんも作る予定だったかな?ごめんね。」
大野はみわが背中に隠した買い物袋を覗き込んだ。
「あ、バレたか。そうです。」
二宮はそんな二人の様子を見ていた。
「あの、とりあえず部屋に入って下さい。ここじゃ、なんなんで…」
みわと大野は部屋へ入るとすぐにキッチンに行って夕飯の支度を始めた。
「あの…えりかさんも呼びません?」みわが言った。
「あぁ、そうだな。」
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「ねぇ、この暑い時期に鍋ってないよね?」
えりかは食べ終わって手で顔を扇いだ。
「だって、栄養摂ってもらわなくちゃって思ったから。野菜たくさん食べれるし。」
みわは、えりかを見てちょっとふてくされた。
「でもさ、夏に鍋って言うのもいいだろ?」
大野はえりかを見て言った。
「いいけど、いいんだけど。暑いよー!」
「二宮くん、大丈夫?ちゃんと食べた?」
みわはさっきから大人しい二宮を心配した。
「うん。大丈夫。ちゃんと食べたから。」
「じゃあ、カズ。もう寝た方がいい。ベッドに入って」
「あれ?智くん、いつから二宮くんのこの名前で呼ぶようになったの?」
「えっ?あ、うん。最近だよ。最近。」
「ふーん。」
えりかは何だか面白くなかった。
大野がやけに二宮を心配するし、なんだかすごく仲が良く見える。
「智くん、明日も早いしそろそろ、帰ろ?」
「あ、でも片付けが残ってるし。」
「そんなの、いいよ。みわに任せてさ、帰ろう。」
えりかは大野の腕を取って引っ張った。
「えっ、ちょっと…どうしたの?」
「大野さん、片付けは私がやるんで、帰ってもいいですよ。」
みわは、そう言って微笑んだ。
「本当に?いいの?」
「大丈夫ですよ。」
「じゃあ、お願いね。ごめんね。」
そう言って大野はえりかとアパートを出て行った。
「あ、みわちゃんも大丈夫だから。帰ってもいいよ。」
二宮はキッチンで片付けを始めたみわの所に来た。
「えっ、いいよー。二宮くんは寝ててよ。まだ休んでなきゃ。」
「いいよ、大丈夫だから。」
二宮は食器を洗っているみわの腕をつかんだ。
「でも…」
「ごめん、1人でゆっくり眠りたいんだ。」
「そっか、ごめん。気が利かなくて。」
「いや…こっちこそごめん。」
「ううん。大丈夫だよ。じゃあ、帰るね。」
みわは、自分の鞄を持って玄関へと向かった。
二宮がその後ろに来てみわを見送る。
「二宮くん。」
みわは、玄関で靴を履いて二宮の方に振り返った。
「っ!!」
みわは、二宮の唇に自分の唇を押し当てた。
二宮はびっくりして慌ててみわから離れた。
「ちょっと…みわちゃん?」
「ごめん…やっぱり我慢出来なかった。自分の気持ち我慢出来なかった…」
「えっ…?!」
二宮はただ、ただ、みわを見つめていた。
続く