49
『優しく、強く』翔said~
俺が楓にキスすると楓は泣いていた。
「楓?ごめん…」
「…翔くん…謝らないで…」
「嫌…だった?」
「ううん。違うよ。翔くん違う。」
「じゃあ、なんで泣いてるの?」
俺は楓の頬に伝った涙を手で拭った。
「わかんない…」
楓は首を横に振ると下を向いた。
「中に入ろ、ベランダにいたら夜は冷える。」
俺は楓の肩を抱いてベランダから部屋へと入った。
「大丈夫?体が冷たい。早く布団に入って?」
「翔くん、優しいんだね。」
「どうしたの?やっぱり後悔してる?」
「してない。」
楓は俺の目をじっと見つめてきた。
「翔くん、一緒に寝て?」
「えっ?」
「今日から一緒に暮らすんだし。恋人…でしょ?」
なんだかいつも一緒にいた楓とは違う気がした。
こんなに色っぽかったっけ?
改めて楓が好きだと思った。
友達から恋人になるってこんな感じなんだな。
俺たちは、同じベッドに入った。
楓が、俺の胸の中にいる。
優しくキスをした。
そっと抱きしめる。
楓がどこにも行かないように優しく、だけど、強く抱きしめた。
なんだか不思議だった。
本当に恋人になれたんだな。
だけど…どうして泣いた?
俺は不安だった。
朝になり目を覚ますといい匂いがした。
キッチンに行くと「翔くん、おはよう」と楓が俺を見て小さく微笑んだ。
「朝ご飯?」
「うん。冷蔵庫にあるもので適当に作っちゃった。」
「ご飯に味噌汁なんて久しぶりだから嬉しいよ。」
「良かった。」
楓の作ったご飯は美味しかった。
「楓、こんなに料理上手かったっけ?」
「うふふ、これでも一人暮らしは長いんだよ?」
「ずっと自炊してたもんな。」
「うん。」
朝食が終わると俺は支度をした。
「楓、今日は?」
「うん、ちょっと街をブラブラしようかな。」
「気を付けてよ。」
「分かった。」
それから毎日、帰ると楓がいて楓の作った料理を食べて。
一緒のベッドに入る。
そんな生活が続いた。
俺が休みの日は公園へ出掛けたりショッピングしたり。
楽しかった。
幸せだった。
でも、気付いたんだ。
楓は、前より笑わなくなった。
楓が俺の元へ来てからもう一年になる。
夕食が終わってリビングでくつろいでいる時に俺は切り出した。
「楓?仕事は?一年だけの休みだったよな?」
「うん。そうなんだよね、もうすぐ一年だよね。」
「日本に帰りな、楓。」
「えっ?」
「仕事、復帰しないとな。こっちでもパソコンでずいぶんと仕事してただろ?」
「バレてた?」
「うん、夜中によくパソコンの打ち込みしてたの、知ってるよ。」
「そっか、バレてたんだね。」
「だからさ、一度帰りな。俺もいつ日本に帰れるか分からないし。楓はこれからは日本で待ってて欲しい。」
「でも…」
「大丈夫。離れててもさ。気持ちは繋がってるよな?」
「そうだね。分かった。ちょうど上司からもそろそろ帰って来れないか、って連絡もらってたの。」
「じゃあ、決まり、ね。」
俺は楓を日本へ帰すことにした。
続く