その手に触れて、永遠に。8
二宮は「でもいるよ、好きな人。」そう言って微笑んだ。
「えっ?いるの?」
みわは、ちょっと驚いたように二宮を見た。
「うん、いる。この間気付いたんだ。好きだって。」
「そっか、そうなんだ。」
いるんだ、好きな人。
誰だろう。
私の知らない人かな。
「うん…でも、片想い。向こうには恋人がいる。」
「へぇー。どんな人?」
「ん?どんな?そうだなぁ。」
二宮は路地裏から見える小さな空を見上げた。
「優しいけど、怒ると怖い人(笑)」
そう言うと優しい顔をした。
「優しいけど怒ると怖い人?」
「うーん、いろんなことに一生懸命な人?かな。」
「そっか。二宮くんの好きな人だからきっと素敵な人なんだろうな。」
「うん、まぁ。」
二宮はニコッと笑った。
その笑顔にみわは、ドキッとした。
さっきの店で見せた顔とはまた違う。
みわは、二宮から視線を逸らした。
「どうした?」
「ううん、なんでもない。明日もあるしもう帰ろう?」
「うん、そうだな。」
二人は路地裏を抜けて通りに出た。
「みわちゃん、家は?どっちだっけ?」
「えっと、あっち…かな。」
「じゃあ、送るよ。」
「えー、いいよ。」
「ダメ。女の子でしょ?もう遅いから。」
「…ありがとう。」
みわは、二宮の言葉に甘えて送ってもらうことにした。
「ねぇ、二宮くん。」
「なに?」
「その…好きな人には気持ち伝えないの?」
「えっ、うーん、伝えない。」
「どうして?」
「恋人がいるしさ、オレが気持ちを伝えて二人が壊れちゃっても…ね…」
二宮くんは、そう言って小さく笑った。
どうして?
この人は不思議な人だ。
自分の気持ちを伝えないなんて。
苦しくないのかな。
「みわちゃんは?そう言えば聞いたことなかったよね?」
「わたし?」
「うん。」
「いないよ。好きな人。」
私は嘘を付いた。
「あ、でもそうだよね。合コン行くくらいだし(笑)」
「そう、そうだよ!せっかく合コンでいい人見つけようと思ったのになぁ。」
「いなかったの?」
「いないー。」
「そっかぁ。残念だったね。」
「んふふ、でもいいの。今日は二宮くんのカッコイイところ見れたし。」
「カッコよくなんてないよ。むしろ情けない。」
「なんで?そんなことないよ。」
「カッコ悪いよ、殴られて逃げて来たんだから(笑)」
「でも、絡まれてるのを助けてくれたでしょ?」
「まぁ、それは当たり前のことをしただけ。」
「二宮くんって、変わってる。」
「よく言われる(笑)自分じゃ分かんないよ。」
「そうだよね。」
「うん。」
話しながら歩いているといつの間にか、みわのアパートの前まで来た。
「ウチここなんだ。二宮くん、今日はありがとう。」
「うん。」
「また、明日ね。」
みわは、手を振ってアパートの部屋へと入った。
今日は、なんだか疲れた…。
みわは、自分の手を見つめた。
少しだけど二宮くんと繋いだ手。
はぁー・・・
あの時、一瞬で恋に落ちた。
そんなことってあるんだね。
切ない想いが一気に押し寄せた。
二宮くんの好きな人ってどんな人なんだろう。
なんか…どうしようもないな…(笑)
二宮は、みわを送った帰り道、考えていた。
気持ちは伝えないって言ったけど…
やっぱり伝えたい。
好きなんだって自分の気持ちを伝えたい。
でも、恋人がいるんだ。
やっぱりダメだ。
だけど…伝えたらどうなるのかな。
すごく切ない。苦しくなる。
その手に触れたい。
そう思うのは…思うだけならいいよね?
続く