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『気持ちはどこにある?』和side~
楓の答えを聞いた途端、俺は嘘ばかりを並べた。
「楓の気持ちはどこにあるの?」
楓は真っ直ぐに俺を見つめてこう言った。
「私は…たぶんカズくんが好きだよ。」
「えっ?」
俺はたぶんマヌケな顔をしていたに違いない。
「カズくんが好きだって気付いたの。たぶん。」
「あのさ…たぶん、って何?(笑)」
マヌケな顔をしたまま楓に言った。
「たぶんはたぶんだよ(笑)」
「…楓?冗談言ってる?」
楓の顔を覗き込んだけど、真剣な楓の瞳に嘘じゃないって書いてある気がした。
「こんなこと…冗談で言わないよ。本当。」
俺はここまで聞いて嬉しい気持ちと複雑な気持ちが入り混じって自分でもおかしなテンションだった。
「楓、そんな大事なこと、こんな場所で言う?しかも簡単に好きだなんてさ。おまえは翔ちゃんのとこ行け。」
「ちょっと、カズくん、何言ってるの?!」
「俺は、思ってることを言ってるだけ。俺が好きだなんて…おかしいだろ?笑っちゃう。ダメダメ。もっとまともな嘘言わなきゃ。」
俺はジョッキに残ってるビールを一気に飲むと立ち上がった。
「ちょっとカズくん?」
俺がレジにお金だけ置いて店を出ると楓も急いで付いてきた。
「カズくん!!」
「なんで?俺が好きだなんて言うの?」
「カズくん、本当のことだよ。私は…高校の時だって。あの絵、文化祭で困ってたらこそっり仕上げてくれたり。雨に濡れたらちゃんと服を乾かしてくれたり。そういうとこだよ。いつもふざけて憎まれ口叩いても。優しかった。気付いたら好きだった。カズくんが。やっと、自分の気持ちに気付いたの。」
「嘘だろ…なんで、俺を選ぶんだよ…」
「なんでって?」
「あの絵…俺じゃない。仕上げたのは俺じゃない。楓ずっと勘違いしてる。」
「カズくんじゃないって?どういうこと?」
「翔ちゃんだよ。あの絵。一旦帰ったけどまた来て仕上げたんだ。翔ちゃんは楓には黙っててくれって。どうして黙ってて欲しいなんて言ったのかは分かんないけど。だからずっと言えなかった。」
「嘘…だって、あの日…」
「だから楓と一緒に帰ってまた来たんだよ。バカだよな、何時間掛かって仕上げたのか…」
楓はその場にしゃがみ込んだ。
「嘘だ…」
「楓をちゃんと見てきて想ってきたのは翔ちゃんだよ。俺は楓のこと、そういう風に見たこたはない。ずっと翔ちゃんが楓を好きなのを見てきたんだ。」
嘘ばかりを並べた。
好きだって言われて嬉しいはずなのに嘘ばかりを並べた。
「カズくん、私は好きなんだよ。どうして…?」
「ごめん。楓は翔ちゃんのとこに行きな。幸せにしてくれるのは翔ちゃんだよ。」
俺は楓と同じ目線になるように楓の前にしゃがんで頭をポンポンとした。
「翔ちゃんと幸せにな。分かった?楓?」
楓は黙ったまま俯いた。
俺は立ち上がると「ほら、立って。」そう言って楓の腕を取りその場から立ち上がらせた。
通りに出てタクシーを拾うと楓を乗せた。
「またね。」
そう言ってドアを閉めると楓が窓から顔を出して「カズくん、ズルイよ。」そう言った。
俺は何も言えずに走って行くタクシーを見送った。
続く