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『初デート。』翔side~
土曜日。
待ち合わせのカフェの前で待っていると遠くから走って来る楓が見えた。
「ごめん、待たせちゃって。」
楓は待ち合わせの時間より10分程遅れて来た。
「遅いぞっ、楓。」
俺はわざと怒ってるように言ってみた。
「あー、ごめん。翔くん時間にピッタリだから急いだんだけど…」
楓は申し訳なさそうに俺を見た。
「俺は10分前に来てたけど?」
腕時計を見ながら楓を見るとなんだか不安そうな顔になった。
「ごめん、怒った?」
怖々俺を見る楓が何だか可愛くて思わず笑ってしまった。
「あはは、いいよ。ごめん、怒ってないよ。」
「あー、良かった。本気で怒られたかと思ったぁ」
楓はホッとしてその場にしゃがみ込んだ。
俺もしゃがみ込んで楓と同じ目線になった。
「ごめん。ちょっとからかってみたくて(笑)」
「もうー、翔くん!翔くんあんまり怒んないから…」
「本当にごめん。カズみたいにさ、ちょっとふざけてみたかったんだ。」
「もうー(笑)」
楓はちょっと笑いながら俺を軽く押した。
「大丈夫?」
「大丈夫!もう(笑)」
「じゃあ、行こっか?」
「あ、そう言えばカズくんは?」
楓が思い出したように辺りを見渡した。
そうだった。カズも含め三人でランチするって言ってしまったんだった。
嘘を付いてカズは来れなくなったって言えば済む話だ。
「うん…それなんだけど…」
でも、俺はやっぱり嘘は付けないと思って謝った。
「楓、ごめん!」
「なに?」
楓が、不思議そうに俺を見た。
「カズは誘ってない。」
「えっ?そうなの?」
「ごめん!」
俺は両手を合わせて楓に謝った。
「もう、いいよ、翔くん。でもなんで?」
「…たまには二人でさ、嫌…だった?」
「ううん、そんな事ないよ。」
楓は、首を横に振ると俺に微笑んだ。
「良かった。じゃあ、行こっか。」
「うん。」
思えばこうやって楓と二人で出掛けたことなんてあったかな。
なかったかもしれない。
「この近くにお洒落な店があるんだ。そこ行ってみる?」
「うん。」
店に入るとオススメランチを注文した。
「美味しい!翔くん、こっちも食べてみる?」
「えっ?」
「あっ、ごめん、友達とはよくこうやってシェアしてるから…」
「あー、そっか女子はよくやるよね。」
「うん。」
俺たちは、シェアしながらランチをして仕事の話しや海外での話しをたくさんした。
店を出ると少し歩いた。
「翔くん、どこ行くの?」
「うん。いい所。」
「ん?いい所?」
楓は「ん?」と言う顔をしたが俺について歩いた。
少し歩いて細い道を抜けると海の見える大きな公園に出た。
「少し座ろっか。」
「ここがいい所?」
楓はベンチに座りながら不思議そうに言った。
「うふふ、ううん。」
俺は笑いながら首を横に振った。
「違うの?」
「ごめん、本当は行くところ思いつかなくて(笑)」
「なーんだ(笑)翔くんだからいろいろ調べてるのと思った。」
「ごめん。初デートなのにな。」
「デート?」
「あ、違うか(笑)」
「あ、でもそうだよね。デートだね。ふふ。翔くんとデートなんて変な感じ。」
そう言って笑う楓は可愛かった。
「そうだな。楓とデートなんてな(笑)」
「ふふ、うん。」
「 あー、初デートなのに。いい所が思いつかなくて…。」
「ううん、いいよ。公園なんて久しぶり。」
「そう?」
「うん。いいよ、たまにはのんびりで。」
周りにはまだ子供連れやカップルがたくさんいた。
「ここから海もよく見えるね。」
「うん。あと2週間もしたらまた俺はあの海の向こう。」
「そっか。翔くんまた行っちゃうんだね。」
「うん。」
「なんか寂しいな…。」
楓は空を見上げた。
綺麗な雲が流れていた。
「俺がいないと寂しい?」
「…うん。そりゃ、ね…やっぱり今までずっと一緒に過ごして来たんだし。私とカズくんと三人で学生時代からずっと一緒で。なんか翔くんがいないと変な感じがするの。」
「そっか…カズも一緒だったな。いつもさ。」
「うん。」
「楓…?」
「なに?」
「今から言うことをよく聞いて欲しい。」
楓は俺の瞳をじっと見つめた。
なんだか恥ずかしくなり俺は視線を逸らして海の方を見た。
「…楓にこんな事言ったら驚くかもしれない。でも聞いて欲しいんだ。」
「…うん。」
「………楓に一緒に付いて来て欲しいんだ。海外まで。」
「えっ?どういう事?」
「楓のこと、好きなんだ。ずっと。今までもずっと。」
「翔くん…」
えっ?楓?
俺は楓を見てびっくりした。
泣いていた。
「楓っ?!」
「ごめん、びっくりして…」
「ごめん…でも俺は本気で楓の事、好きなんだ。」
「…翔くん…なんで急にそんな事…」
楓の綺麗な瞳からポロポロと涙が落ちた。
俺は泣いている楓の肩を抱き寄せて人目も気にせずに抱きしめた。
楓は俺の胸でずっと泣いていた。
「なんで泣くんだよ…」
「ごめん、自分でもよく分かんない…」
楓は思い出していた。
カズくんが言っていたこと。
『もし、翔ちゃんに好きだって言われたらどうする?』
本当だったんだ。
本当に…
翔くんが私を?
絶対ないと思っていた。
「楓、ごめん。」
謝る翔くんの胸で何故だか涙が止まらなかった。
私が好きなのは…
好きなのは…
続く