その手に触れて、永遠に。4
大野とえりかは、マンションに向かって歩いていた。
「どうする?寄ってく?」
「うーん、今日は行きたいところがあるの。」えりかは大野を見て微笑んだ。
「なに?」
「一緒に行ってもらってもいいかな?」
「いいけど…どこ?」
「ちょっと…ね。」
えりかは意味ありげに笑った。
大野はえりかが歩いて行く方に向かって一緒に歩いた。
大野のマンションを通り過ぎてしばらく歩くと海沿いの公園に出た。
広い場所にベンチが少し並んでいて二人はそこに座った。
「ちょっと座ろ?」
「あぁ、うん。」
「今日、何があるか知ってる?」
「えっ?」
「智くん、知らない?」
えりかは、大野と二人の時は“ 智くん”と呼ぶ。
二人は元々は同じ会社で昔からの知り合いだった。
「ごめん、分かんない」
大野は首を振った。
「今日ね、流星群。流れるんだって。ちょうどいい時間かなと思って。」
「そうなんだ。でも見えるかな。」
「ねっ、都会じゃ無理かな。」
「どうかな。ここだと遮るものもないし空は大きく見えるけど。」
「一緒に見たいなーと思ったんだ。ごめんね。早く帰りたかった?」
「いや…大丈夫。」
そう言って大野はえりかに微笑んだ。
二人は空を見上げた。
「風が気持ちいいね。」
えりかは空を見ながら言った。
「本当だ、気持ちいいね。」
「ねっ、智くん。ありがとね。」
「なに?急に。」
「パン屋、誘ってくれて。一緒にお店が出来るなんて嬉しいよ。」
「こちらこそ、ありがとう。本当は不安だったんだ。会社辞めてパン屋やるなんてさ。友達には笑われた。失敗したらどうするんだ?って。」
「うふふ、私もね。不安だった。本当にこの人に付いて行っていいのか悩んだもん。」
「そっか。そうだよね。」
「でも。」
えりかは空に向けていた顔を大野に向けた。
「でも?」
大野も、えりかを見た。
「好きだから。」
「えっ?」
「ふふ、智くん。いつまでも言ってくれないんだもん。」
えりかは、大野を見つめた。
大野は恥ずかしくなって視線を逸らした。
「俺も。ちゃんと好きだから。」
海の方を見ながら大野は言った。
「うん。知ってる。」
「ふふふ。」
大野は手を鼻に当てて思わず笑った。
その時いくつかの星が流れた。
「あっ」
「今のそうかな?」
えりかは大野を見た。
「そうかも。」
二人は顔が合ってどちらからともなく唇を重ねた。
空には星が流れていた。
二人の間を心地よい風が吹き抜けた。
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一方、二宮とみわも夜空を見ていた。
「ねぇ、今流れ星だよね?二宮くん見た?」
「えっ?いや…」
「なんだ、残念。」
「願い事した?」
「願い事かぁ。出来なかったよ(笑)」
「急には無理だよね。」
「あの二人も見てたかもね。」
「ん?」
「店長とえりか先輩。」
「ねぇ、あの二人って昔からの知り合い?」
「うん。同じ会社で働いてたんだって。二人でパン屋をやるって辞めたみたい。お互いお金出し合ってね。」
「へぇー。みわちゃんは?」
「あー、私はえりかさんの高校の後輩。ずっと仲良くて。パン屋で働いてたのをスカウトされたの。」
「そうなんだ。」
「ねぇ、二宮くんってさ。」
「ん?なに?」
「やっぱりえりか先輩が好きなの?」
「だから違うって。」
「さっきからあの二人のことよく聞くなーと思って。」
「いや…一緒に働くのに知りたいなって。」
「そっか。でもさ。二宮くんって男の子っぽくないよね。女の子みたいな時あるよ。中性的っていうの?可愛いよね。」
そう言ってみわは、ニコッと笑った。
「そう…かな?」
二宮はちょっと困ったように頭に手を当てた。
「うん。でもね。私、二宮くんみたいな子好きだよ。」
「あー、みたいな子…?(笑)オレいくつに見える?」
「えっ?私より年下?」
「27」
「うそっ!」みわは驚いて口に手を当てた。
「驚く?(笑)」
「私より上だったんだ。えりか先輩と同じ年…です…よ?」
「あはは、急に敬語は可笑しいよ。いいよタメ口で(笑)」
「そうだよね。なーんだ、てっきり私より下かと思ってた。でも本当に、二宮くんって可愛いよ。」
「そう?(笑)」
「ふふふ、うん。」
二宮とみわはすっかり仲良くなった。
そして、二宮は大野の事が気になって頭から離れなかった。
なんだろう?
この気持ち。
初めて会ったときからずっと心がキュッとする。
続く