30
『熱』
二宮が出て行ったあと櫻井は急いで玄関まで行ってドアを開けて辺りを見たがすでに姿は見えなかった。
楓も心配してベッドから降りて来た。
「カズくん、いた?」
「もういなかった。」
櫻井は首を横に振った。
「そっか…カズくん、何か置いて行ったよね?」
楓は二宮がテーブルに置いて行った物を見た。
「カズ、何を置いて行ったの?」
「これ…」
楓はその場に座りながら櫻井にピアスとハンカチを見せた。
櫻井もその場に座った。
「イヤリング?」
「ううん、ピアス。私がカズくんの家に忘れた物。」
「ピアス、忘れたの?!」
「あ、うん。雨の日にね。カズくんのアパートに寄ってその時に外して…」
「そうなんだ。」
楓がカズのアパートに寄ってピアスを外す?
状況が掴めずちょっと悩んだ。
「あ、服が濡れたから着替えた時にね外して、洗面所に忘れたみたいなの。取りに来るように連絡もらってて。」
「そっか。」
「それで今日ね、家に来たんだけど。私が具合悪いって知ったらすぐに帰るって。」
「カズ、来たの?」
「うん。来たんだけど、友達も来てて一緒に帰ったの。」
「ふーん…そっか。」
櫻井は二宮と楓が連絡を取りあっていることに少しだけ嫉妬した。
今までだって二人がやり取りしていた事はあるだろう。
でも…
なんだろう。
なんだか自分の気持ちがうまく整理出来ない。
「カズくん、何か勘違いしたかな?」
楓が少し不安そうな顔をした。
「勘違い?」
櫻井は勘違いの意味は分かっていたが、わざと楓に聞き返した。
「私と翔ちゃんが、その…ねっ」
ちょっと言いにくそうに言葉を濁した。
「あぁ、うん…勘違いしたかもな。それならそれでいいんじゃない?」
「えっ?」
「あ、いや、やっぱ勘違いしたままじゃ困るか。」
「うん…。」
楓がまだ不安そうに頷いたのを見て櫻井は複雑な気持ちになった。
楓はやっぱり二宮が好きなんだろうか。
そんな事が頭をよぎる。
「楓、これ以上熱が上がったら大変だからもう寝てな。」
「大丈夫だよ。それより翔くん、ご飯は?」
楓がキッチンでガタガタと何かしようとしたのを櫻井は止めてベッドで寝てるように促した。
「翔くん、大丈夫だよ。」
「ダメ!ちゃんと寝てろって。」
「ごめんね。ありがと。」
櫻井は楓をベッドに寝かせるとアパートをそっと出た。
やっぱり楓が好きだという気持ちでいっぱいになる。
それから二日後。
楓は二人に«熱が下がって元気になった»とLINEした。
けれども三人で会うことはそれからほとんどなく気付けば月日はずいぶんと経っていた。
続く