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『切なさ』翔side~
俺はカズに聞いてみたくて会えないか?とLINEした。
会えると返事が来たので急いでコンビニで適当に買い物をしてカズのアパートへ向かった。
カズの部屋へ行くのにこんなにドキドキしたことはなかった。
部屋の前へ着くと深呼吸してからインターフォンを鳴らした。
ドアはすぐに開いてカズが顔を出した。
「よっ!」
「あ、うん。入って。」
「うん。」
部屋に上がると買い物してきた飲み物や食べ物をリビングのテーブルに置いた。
何となくカズが落ち着かないように見えた。
「カズ、夕飯食べた?」
「まだ。」カズが首を横に振った。
「俺もまだなんだ。適当に買ってきたから食べながら話そ。」
「そうだな。」
俺とカズでテーブルを挟んで座った。
「最近どうなの?」
俺が話し掛けるとお弁当を食べながらカズが答えた。
「最近?あー、仕事に慣れてきたし残業もあるし忙しいかな…」
「そっか。彼女は?出来た?」
俺が聞くとカズはフッと笑って答えた。
「何?急に?いないよ。今は仕事に慣れることに必死で。毎日、家と会社の往復だけ。」
「でも、慣れて来たんでしょ?」
「翔ちゃんこそ、一流企業に就職してどうなの?仕事は?」
「うん、まぁ、それなりにね。でもまだ新人だし雑用も多くて。資料作ったり調べ物任されたり。大変だよ。」
何となく気まずい空気が流れていた。
お互い聞きたいこと話したいことは仕事の話しじゃない事は分かっていた。
カズは黙ってご飯を食べているし自分も黙々とお弁当を食べた。
何か喋らなきゃ、そんな事を思っているとカズが突然聞いてきた。
「翔ちゃん、楓とこの前会ったって。どこで会ったの?」
カズが俺を見たけどすぐに視線を逸らした。
「うん。本屋でね。偶然なんだけど…」
「そっか。」
カズが何か言いたそうにしているのは分かっていた。
タイムカプセル。
話したいことは俺も同じだ。
たぶん。
すると、カズの口から出てきたのは意外な事だった。
「翔ちゃん、文化祭の時の絵、覚えてる?」
「へっ?」
俺はてっきりタイムカプセルの事を話すかと思っていたからびっくりして変な声を出してしまった。
「あー、ごめん。いきなり。高校の時のさ。」
「うん。覚えてるよ。あの大きな絵。」
「楓さ、制服のシャツに絵の具付けちゃって(笑)」
「あー、あったね。あれ、可笑しかったなー。」
「うん。でも可愛かった。」
「ん?」
「あ、楓ってさ時々ドジって言うか天然?みたいなとこがあって可愛かったよな?」
カズの口からそんな言葉が出てくるのが意外だった。
確かに楓は天然な所はあるし、ちょっと抜けてる所があって可愛かった。
カズは楓とはよくケンカみたいに憎まれ口を叩いていたし、そんな風に思っていたなんてな。
あの絵の話。
楓も言ってたもんな。
この前会ったときにカズともそんな話を2人でしたんだな。
きっと。
俺は急に寂しい気持ちになった。
カズは楓の事、どう思ってるんだろうか?
続く