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『苦しい胸の内』翔side~
俺は一瞬何のことか分からなくて難しい顔をしてしまった。
「えっ?」
「だからタイムカプセルだよ。」
「あ、あぁ、タイムカプセルね…」
タイムカプセル?前に話したことか?
「この前、翔くんは来れなくなったってカズくんから聞いたよ?」
そこまで聞いて何となく状況が分かってきて俺は上手く話しを合わせた。
「うん…仕事が急に入って、大変だったんだ。」
「そっかぁ。翔くんが一番楽しみにしてたのにね。残念だったよね。」
楓はコーヒーを飲みながら俺を見ていた。
「うん。でさ、タイムカプセルは見つかったの?!」
「あっ、そっか。タイムカプセルね、
その日は雨が降ってきちゃってね。帰ったんだ。」
「えっ、そうだったの?掘り起こさなかったのんだ?」
「うん。結構な降りでね。あ、私カズくんが引っ越してから初めてカズくんちに入ったんだ。」
「はっ!?」
俺は思わず大きな声をだしてしまった。
「ちょっと、翔くん声大きいよ。」
「あ、ごめん。カズんちに行ったの?」
俺は胸が苦しくなった。
部屋へ行ったんだ。
俺も就職してからはカズの部屋へは行ってない。
そもそも忙しくてなかなか会えない。
楓が俺を見ている。
学生の頃とは違う。
大人になった楓といると胸が苦しくなる。
「翔くん?聞いてる?」
楓の声で我に返った。
「あ、ごめん。で、なんだっけ?」
「もぅ、だから雨が降って来て服が濡れちゃったからカズくんちに行ったの。」
「へぇー、そうだったんだ。」
「うん。そしたらさ、カズくん私の服を乾かしてくれてさ。それで思い出したの。昔さ、文化祭の大きな絵。朝来たら仕上がってたでしょ?」
「あぁー、あったね。」
そう言えばあったな。
俺は思い出していた。
「あれ、カズくんが仕上げてくれたんだよね?すごいよね、本当に。カズくんってさ本当にサラっとそういう事しちゃうんだよね。」
楓はやっぱりあの絵はカズが仕上げたと思ってるんだな。
あの絵は…俺が仕上げたんだ。
あの日一旦は楓と帰った。
でも、やっぱり気になってこそっり戻って最後まで仕上げた。
次の日は眠くて仕方なかったのを覚えているし、楓がカズが仕上げたんだと勘違いしてるのも分かっていた。
「あの絵、翔ちゃんが仕上げたんでしょ?楓勘違いしてるよ?いいの?」
カズにそう聞かれたけど、俺はそれでいい、と言ったんだ。
俺が仕上げたことは黙っていて欲しいと言ったんだ。
続く