私は彼の言葉をやっと理解した。
けれど何も言えない。
「君の想う人の所へ行ったほうがいい。だから...別れよう。」
翔ちゃんは真っ直ぐに私の目を見て言った。
「...翔ちゃん...。私...今でもちゃんと好きだよ。だから...」
彼は首を横に振った。
「ごめん...」
「どうして?この前はずっと一緒にいたいって...そう言ってたよね...?」
「ずっと考えてた。何がベストなのか。」
「ベストな答えが別れるって事?」
翔ちゃんは、小さく首を縦に振った。
何だかよく分からないまま私は翔ちゃんと別れた。
そして、どうして翔ちゃんが私との別れを決意したかを後から知ることになる。
この時はまだ知らなかった。
次の日、仕事に行くと二宮くんの姿が見えなかった。
「ねぇ、二宮くんは?お休み?」
私は隣のデスクの子に話しかけた。
「あれ?知らなかった?二宮くん今日行くんだよ?」
「えっ?!」
「聞いてないの?」
「何?」
「やだ、てっきり付き合ってるのかと思った。だから知ってるのかと思ってたけど違うの?」
「まさか...二宮くんは...ただの同僚だよ。」
「そうなの?仲が良かったからてっきり...。異動が早まって今日発つんだって。」
嘘でしょ?
私まだお別れも言ってない...
昨日は何にも言ってなかった。
やだよ。
どうして?
昨日一緒に食べたのが最後だったんだ。
だから私にお弁当なんて作って来て...
そう言えば、「お昼を一緒に食べるのはこれが最後かもね。」ってそう言っていた。
二宮くんは最後だって分かってたんだ。
二宮くんも翔ちゃんも...私の前からいなくなっちゃう。
私が早く答えを出さなかったから。
その日は、全く仕事に身が入らなかった。
二宮くんは見送られるのが嫌だと言ってみんなには見送りには来ないで欲しいと言っていたみたいだった。
昨日、残業した人達だけで軽くお別れ会みたいなのをオフィスでやったと聞いた。
彼らしいと言えば彼らしい。
こんなに急にいなくなるなんて。
それからは、何でもない日々が淡々と過ぎていった。
二人が私の前からいなくなって一ヶ月。
久しぶりの友達から連絡が入った。
―久しぶりだね。近い内にちょっと会える?
潤くんだ。
―どうしたの?すごい久しぶりだけど...?
―ちょっとね。翔くんの事で話しておきたい事があるんだ。
翔ちゃんの事?
私はドキッとした。
やっと忘れかけてきた所だったのに。
潤くんは翔ちゃんの親友だった。
喧嘩したり悩んだりした時は相談に乗ってもらっていた。
でも、どうしたんだろう?
翔ちゃんの事ってなんだろうか?
私は急に胸がドキドキして苦しくなった。
続く