高橋は少しずつあの日の事。
どうして相葉を監禁するまでに至ったのか。
いろんな事を話してくれた。
「じゃあ、まーくんは美紀ちゃんをコンサートに誘って。君は?行かなかったの?」
「そうだ。俺は断ったんだ。でも行けば良かったと今でも悔やんでる。」
どうしてあの時行かなかったのか?
今でも悔やんでいるんだ。
『どうしても行かないの?』
美紀は困ったように聞いた。
『行かない。』
高橋は頑なに断った。
『じゃあ、コンサートの日。呼びに行くからね。』
美紀は冗談なのか本当なのかそう言って笑った。
コンサート当日。
美紀はお昼過ぎに家まで俺を誘いに来た。
『何?』
『今日だよ。コンサート。』
『だから行かないって。』
俺が玄関から部屋へ入ろうとすると美紀が俺について部屋に入って来た。
美紀とはずっと一緒だったから部屋へもこうやって勝手に入って来る。
『なんで行こうよ。』
『やだよ、だいたいさ。相葉は俺には何にも言ってこないし。そういうのは女が行って喜ぶもんじゃないの?』
『だから、二枚もらったんだし。ねっ?』
『えーめんどくさいな。』
『早く着替えて。ほら!』
『分かったよ。』
『やった。』
美紀は喜んだ。
『ちょっと着替えるから外に出てて。』
『うん。』
そうは言ったものの俺は行く気がしなかった。
一度は着替えて外へと出た。
でも、なんだか二人で歩いているのが恥ずかしくなって来た。
美紀は楽しそうにしているし、どうしようかと思っていると携帯が鳴った。
『あ、ごめん。電話。』
『あ、うん。』
その電話は友達からだった。
特に大した用もない電話だったが、俺はこれを口実に美紀に謝った。
『ごめん。友達が急に会おうって。中学の時の友達で久しぶりだしそっちに行くよ。』
『えー、ちょっと高橋くん!ダメだよ。』
美紀は俺の腕を掴んで引っ張った。
『いや、ごめん。戻るわ。美紀は楽しみなよ。』
俺は会場の近くまで行ったにも関わらず戻って来てしまった。
美紀はそれからコンサートには行ったはずだ。
その日、終わってから会えないかと相葉にメールしていた。
相葉からあとになって美紀からメールが来ていたと聞いた。
だから、返事があるまで美紀は待っていたんだ。
たぶん。
相葉はメールに気付くことはなかった。
コンサートが終わってもすぐには帰れなかった。
次の日のコンサートの打ち合わせがあったからだ。
でも、美紀は待っていた。
帰りが遅い美紀をお姉さんの真理子さんが心配して俺に連絡をくれたんだ。
部屋にいると電話が鳴った。
真理子さんだ。
『高橋くん、美紀と一緒だよね?』
『えっ?今日は一緒にはいないです。』
『えー、そうなの?てっきり一緒かと...』
『すいません、一緒に行かなくて。』
『コンサートだったよね?行かなかったんだ?!』
『はい。』
『美紀、まだ帰って来ないの。ちょっと心配でね。』
美紀が...?
もう、10時を回っていた。
俺はいてもたってもいられず外に飛び出した。
電車に乗って会場まで向かった。
最寄り駅で降りて会場まで走った。
その時救急車が1台俺の前を走り抜けて行った。
ちょうど雨も降ってきていたが傘もささずに走って美紀を探した。
いない。
いなかった。
俺はふと目にしたものに向かって走った。
見覚えのある靴。
美紀のだ...
雨が激しく降る中携帯が鳴っていた。
出ると真理子さんだった。
『高橋くん。美紀が...美紀が...』
『真理子さん、どうしたんですか?』
『今、病院から...連絡があって...』
『そんな...』
俺はその場に座り込んだ。
どうして美紀の靴がこんな所にあったのか...
慌てて走ったからだ。
美紀は、
美紀は、
付きまとわれて
走って逃げた。
目撃者によると、一人でいる所に声を掛けられてあまりにしつこいので走った。
男は、面白がって追いかけたらしい。
急いで走って
走って
赤信号なのに気付かずそのまま走った。
通行人が慌てて救急車を呼んだ。
相手の車の運転手はすぐに逮捕された。
美紀は、
その時から目を覚まさないんだ。
ずっと。
ずっと。
眠ったままだ。
両親の思いで美紀は急に留学した事にしたんだ。
生徒たちを動揺させないためだ。
本当の事を知ってるのは俺と。
先生と。
一部の女友達。
高橋はそこまで話すと
美紀の髪を撫でた。
「これで分かっただろ?」
「それでまーくんを?」
「あぁ。でも...」
「ん?」
「でも、本当は相葉は悪くない...今頃になって気付いたんだ...」
「辛かったんだね...」
二宮がそう言うと高橋は涙を流した。
続く