白石が、行ったあと三人は病室に戻った。
「ねぇ、やっぱり俺が悪いのかも...」
松本が唐突に櫻井と大野を見て言った。
「何?どうしたの?」
櫻井が不思議そうな顔をした。
「いや...」
「何?」大野も松本を見た。
「俺が雅紀を病院に行くまで見届ければ良かったんだ。リーダーに呼ばれて自宅に戻ったから。カズに雅紀を頼んで二人残して来たんだ。」
「ちょっと待って。何それ?オイラが悪いの?潤くんに電話したから?」
「いや...そうは言ってない。二人を残してきたのは自分の判断なんだし…」
「でも、カズは自分の意思で行ったんでしょ?」櫻井が松本を見る。
「でも...自宅に戻る前に高橋から電話があったんだ。雅紀のスマホが鳴って...俺そのままにして来ちゃって。雅紀のスマホをそのまま置いてきて、カズに雅紀を頼むって、不安そうにしてるカズを置いてきた。だから...俺の責任でもあるんだよ。カズになんかあったらさ...」
松本はそう言いながらその場にしゃがみ込んだ。
「なんで?それならそう言ってくれたら良かったのに、なんで戻って来たの?オイラなんかほっといてくれたら良かったのに...アイツ本当にバカだな...なんでわざわざ...」
「本当に...なんでわざわざ犯人の所になんか。アイツ...バカだよ。何やってんだよ!」
櫻井は悔しそうに頭を抱えた。
三人は二宮が今どういう状態でどういう環境にいるのか...
相葉のような事になっていないか。
心配でならなかった。
その時「んっ...どうして...なんで...」と相葉の声が聞こえてみんな我に返った。
「雅紀!」
松本が駆け寄った。
「大丈夫?どうした?」
手を取って顔を覗き込む。
しばらくするとうっすらと目を開いた。
「相葉ちゃん!」
大野が呼びかけると微かに「リーダー・・・?」と言った。
ゆっくりと首を左に動かす。
大野が立っている方を見てゆっくりと目が開いた。
「起きた!起きたよ!」
大野は思わず声を上げる。
松本は握っている手に力を込めて
「大丈夫?どこか痛くない?」
心配そうにそう言った。
相葉は目を開けてしばらく天井を見ていた。
握られていない方の手で呼吸機のマスクを外す。
「...ここ、どこ?」
「病院だよ。」
相葉は声の方に首を向ける。
「翔ちゃん...?なんで?」
「体は痛くない?」
「潤くん?どうして?」
「覚えてないの?俺とカズであのアパートから逃げて来たじゃん?」
「えっ?アパート?」
「タクシーに乗って、翔くんのマンションまで行ったよね?水が欲しいって言うから...水も飲んで...それで...」
松本はそこまで言ってやめた。相葉が不思議そうに松本を見ていたからだ。
そして、握っていた手も布団に入れてあげた。
「えっ?何?それで?誰が?」
三人は顔を見合わせた。
覚えてないのか?
「とりあえず先生呼ぼう。」櫻井はナースコールを押した。
三人の中に不思議な空気が流れる。
覚えてない...
あんな目にあって、覚えてない?
櫻井は眉間にシワを寄せた。
でも、そうだ。
前に取材でそんな事を勉強した事があった。
心的外傷で一時的に記憶が喪失する。
相葉はそれなのか?
いろいろ考えているとドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ。」
松本がドアの方を見て言った。
白石が入ってきた。
「相葉くん、目を覚ましたって?」
「はい、それが...」
「ん?櫻井くんどうした?」
「覚えてないみたいで...」
「ん?どういう事?」
「俺とカズでアパートから逃げて来たこと覚えてないみたいです。」
「そうか...」
白石は相葉の顔や体を触って聴診器を当てると胸の音を聴いた。
「んー、体には異常はなさそうだね。肋骨は...レントゲンまだ撮ってなかったね。まぁ固定しておけば大丈夫かな。」
そう言って病院の寝間着をまくって胸の様子を診た。
「あの...どこの病院?俺、どうしたの?肋骨も?」
相葉は白石に不思議そうに聞いた。
「うん。君はね、過酷な状況にいたんだ。でももう大丈夫だからね。しばらくゆっくり休んで。」
「過酷な状況?何?」
相葉はベッドの周りにいる三人を見た。
「本当に覚えてないの?」
松本が聞いた。
相葉はベッドのうえで首を横に小さく振った。
櫻井は白石の顔を見た。
「一過性のものだと思うから心配しなくても大丈夫。強いストレスからそうなっているのかもしれないね。念のため脳の検査もしてみますか?」
「よろしくお願いします。」
櫻井は頭を下げた。
「ねぇ、何?どうしたの?」
相葉が笑顔で聞いてきた。
「うん。大丈夫。ちょっと収録中怪我したんだ。雅紀はゆっくり休んでな。」
そう言って櫻井は布団を掛け直してあげた。
「えっ?収録中?」
「いいから、眠って。」
櫻井は雅紀に優しく微笑んだ。
相葉が笑顔なのがまだ救いだった。
続く