2『出会い』
食べ終わった皿を流しに片付けながら二宮はユウコに話し掛けた。
「ねぇ、最近実家に帰ったりしてないの?」
「うん、してない。」
ユウコは、ダイニングテーブルから洗い物をするカズを見ていた。
「たまには帰れば?」
「どうして?珍しいね、カズがそんな事言うなんて。」
ユウコは、肩までの髪を一つにまとめて上に上げたり、ひねったりしていた。
「だってもう、長く帰ってないでしょ?」
「うん…もしかして、母親に言わされてる?」
「バレた?この間帰ったら実家に来ててさ。最近、連絡ないけどどうしたかな〜って言ってたから。」
カズは、洗い物が終わってユウコの方に振り返った。
「たまには帰りなよ?」
「うん…」
ユウコの母親とカズの母親は同級生だった。
小さい頃、母親同士がよく会っていたため、ユウコもカズも昔からよく知っていた。
母親がお喋りしている間、よく二人で遊んでいた。
初めて二人が出会ったのは、ユウコが5才。カズが3才の時。ユウコの方が二つ歳上だった。
ー名前は?
ーカズ…
ーカズ…?
ーうん…
ー私は、ユウコだよ。
ーユウコ…?
ーそ、ユウコだよ。
最初は、つたない会話も大きくなるにつれ、ちゃんとしたものになっていった。
「ねぇ、最初の出会い、覚えてる?」
「まさか…覚えてないよ、俺小さかったし」
「そっかぁ、可愛かったんだよ〜こんなちっさくてさっ。」
ユウコは、手でこれくらいだったかぁ〜と床から少し上のところに手を浮かせた。
「そんなに小さくないだろ。」
「まだ、こんなんでした。」とユウコはちょっとむきになって言った。
「はい、はい。」
「もぅ。」
ユウコは、ちょっとむくれてカズを見た。
「あっ、そうだ。そろそろ出掛けなきゃ。」
カズが時計を見て、ちょっと慌てた。
「えっ、もうそんな時間?」
ユウコは時計を見る。
「ふふ、だけど、出掛ける支度する前に…」
そう言ってカズは、ユウコに近付いて手を引っ張って椅子から立たせた。
「何?」
その時、ふわっとカズがユウコを抱きしめた。
「ちょっと、カズ?」
「昨日、寝ちゃってたから…。」
そう言って、ユウコのおでこに自分のおでこをくっつける。
鼻と鼻をくっつけて軽くキスをする。
最初は軽く、徐々に強くなっていくキス。
カズはユウコの髪を頬を優しく撫でた。
もう一度、軽くキスをすると、じゃあ行くね、とカズは寝室に着替えに行ってしまった。
ユウコは、リビングに行きソファーに座った。
カズのキスは優しい。
だけど、一つだけ分からない事がある。
カズの気持ちだ。
二人は、付き合ってるのかさえ曖昧なままだった。
カズはユウコに『好きだ』と言った事がない。
いや、言ったかもしれない…。
だけど、ユウコには言われたと言う記憶が曖昧だ。
いつから、こんな関係になったんだろう。
ユウコは、カズの気持ちを確かめたかった。
カズとユウコが初めて出会った時から、二人はこうなる運命だったんだろうか。
カズがユウコに『好き』とハッキリ言ったのは、幼い頃のカズだった。
それだけはハッキリと覚えていた。
ユウコは記憶の中のカズを辿った。
続く