1『二人』
まだ少しだけ空気が冷たい朝の時間。
一人の女性がマンションから出てきた。
彼女は、マンションの入り口の前で大きく伸びをすると走り出した。
少し前に比べるとかなり暖かくなって来て桜が徐々に咲き始め走っていても気持ち良かった。
彼女は、しばらくマンションの周りを走ると再びマンションの入り口へと入って行った。
彼女の名前はユウコ。
職業は女優だ。女優と言ってもいわゆる大女優ではなく、ちょい役ばかりの売れない女優。
「ただいま。」
彼女は少し小さな声で言いながら部屋へと入って行った。
寝室を覗くとベットで寝ている男がいた。
この男は、今や知らない人はいない国民的アイドル。
二宮和也だった。
「まだ寝てる…。」
彼女はキッチンへ行きコーヒーを入れた。
すると、寝室から男があくびしながら出てきた。
「ユウコ、今日も走って来たの?」
「あっ、うん。ちょっとだけだけどね。それより、やっと起きたの?」
「まだ眠いけど、コーヒーのいい匂いがしたから目が覚めた。」
「飲む?」
「うん、あと…」
カズはちょっと眠そうにあくびをしながら頭を掻いた。
「なに?」
「お腹空いちゃって。」
ちょっと恥ずかしそうにそう言った。
「トーストでいい?今、用意するね。」
ユウコは、慣れた手つきで朝食の準備を始めた。
キッチンのダイニングテーブルに座るカズにユウコは話し掛けた。
「カズ、昨日はまた、自分の部屋に帰らなかったの?」
「あぁ、なんか家に食べ物なんもなくて…。食べさせてもらおうと思って。そしたらユウコ寝てるんだもん。」
「それ何時よ?」
ユウコは、出来上がったスクランブルエッグと、ハムの乗った皿をテーブルに置きながらカズに問いかけた。
「えっと、」
カズは、着ている服の袖を引っ張りながら時計を見て、思い出そうとした。
「2時?」
申し訳なさそうにユウコを見ながら言う。
「もぅ、とっくに寝てる時間。」ユウコは、半ば飽きれ顔でカズを見た。
「ごめん。」
「まぁ、いいけど…。」
ユウコはカズに、トーストを出して自分もダイニングテーブルの椅子に座った。
「カズ、今日は何時?私は、今日は休みだけど。」
「わかんないなぁ。収録もあるし。」
「そうだよね。」
そもそも、この二人は、一緒に住んでるわけではない。
時々二宮がユウコのマンションにやって来るのだ。
芸能人だからバレたら大変なはずなんだけど、二人とも同じマンションなので、今のところバレる事もないだろう。
続く