たった一言。
――どう?釣り行かない?
そんなメール。
少しぶっきらぼうな彼だし。
私も一言。
――行く!
でも、それっきり返事がない。
仕方なく私から電話して待ち合わせ場所を決めた。
運転出来ない彼に代わって私が運転して海まで車を走らせていた。
「今日、すごく天気いいよ。」
私が運転しながら助手席を見ると「やっぱさ、ドライブしよっか?」
彼が急にこんな事を言った。
「えっ?」
「あ、でも嫌ならいいけど。」
嫌なわけない。
大好きだもの。
一緒にいれるならなんだっていい。
「いいよ!ドライブしよ。」
私がニコッと笑うと彼もふにゃっとした笑顔を私に見せた。
「本当、今日あったけーなー。」
彼は助手席の背もたれに体を預け大きく伸びをしながら目を閉じた。
えっ?
「智くん?」
私が呼びかけると車の窓から入る日差しが眩しいのか目をうっすら開けて私を見た。
「大丈夫、寝てないから。」
そう言ってまた目を閉じた。
もう、智くんってば・・・
車を走らせていると海が見えて来た。
私は海沿いの道路の少し広くなっている所に車を止めた。
「智くん、起きて。」
私が声を掛けるとすぐに目を開けて眩しそうに外を見た。
「おっ、海!」
「もう、本当に寝てたの?」私が少し機嫌悪そうに聞くと彼は申しわけなさそうに「ごめん、運転上手いから・・・寝ちゃった(笑)」
そう言って、ふふっと微笑む。
その顔にキュンとした。
あー、やっぱり好きだ。
この人とこうしてずっと一緒にいたい。
車から降りて二人で砂浜まで歩いて行った。
波の動きを見ながら空を見上げると海の青さと空の青さが繋がって自分がすごく小さく感じた。
「智くん、海好き?」
私が聞くと「うん。好きだよ。」その言葉にドキドキしながら私は智くんを見た。
横顔がすごく綺麗でさらにドキドキした。
風でなびく髪も服もすごく綺麗に見えた。
なんかもう本当にこの人が好きで隣にいるのが苦しい。
告白したらなんて言うかな。
そんなふうに思いながらずっと海を眺めていた。
智くん、何考えてるのかな。
さっきから海を見つめて動かない。
そしたら突然彼が言った。
「好きなんだ。」
えっ?
今なんて言った?
「えっ?」私が驚いて智くんを見るとこっちを見て少し恥ずかしそうな顔をした。
「ふふ、ごめん驚くよね。」
私は何も言えずに黙っていると「聞こえてなかったならいいや。」そう言って車に向かって歩き出した。
えっ?待って。
好きって、何?
私を好きってこと?
聞こえてたよ。
智くん、どういうこと?
私がドキドキしながら歩いて行く智くんの後ろ姿を見ているとなんだか涙が出てきた。
立ち止まっている私に気付いて近付いてくる智くんの顔が涙でよく見えない。
「えっ?ちょっとどうした?」
彼が心配して私の顔を覗き込む。
「・・・だから・・・」
「えっ?聞こえない。」
「私も好きなの!」
「へっ?!」
私と智くんはお互い黙ってしばらく見つめあっていた。
それはロマンチックに見つめ合うとかそんなんじゃなくただお互いびっくりして驚いて声も出ないと言った感じだった。
「あっ・・・智くんごめん。変な事言ったかも・・・」
「・・・うん。」
私たちは何事もなかったように車に乗った。
私は、どこに行くでもなくただ車を走らせた。
「あのさ、うち来る?」
「うん。」
智くんのマンションまで車を走らせる。
信号待ちで車を止めた時、智くんが私を見て言った。
「ずっと好きだから。」
「・・・うん・・・私も。」
ハンドルを握る私の腕を軽く引っ張って自分の方へ引き寄せると彼は軽く私にキスをした。
目が合うとふふっと恥ずかしそうに微笑んだ。