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数ヶ月後―――
「あけみー、早くして。」
「待ってて、もうちょっと。」
あけみは、玄関で待っている潤にお弁当を渡した。
「はい。」
「ありがと。」
潤はあけみに軽くキスをすると仕事へと出掛けて行った。
あけみは玄関からベランダへと移動して上から潤に手を振った。
「行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
下から笑顔であけみに手を振った。
前日の夜―――
「えっ?お弁当?」
「そう。お弁当。」
ソファーに座ってテレビを見ていると潤が急にあけみにお弁当を作って欲しいと言い出した。
「なんでまた?」
「いいじゃん。休憩時間にゆっくりあけみの料理が食べたいんだ。」
「いいけど。急だし有り合わせになるよ?」
「いいよ。」
「んー、分かった。」あけみは笑顔で潤を見た。
二人はそのまま見つめあって軽く唇が触れた。
潤は照れたように下を向いた。
そしてもう一度あけみを見ると軽くチュッとキスをした。
「あけみ?」
「何?」
「愛してる。」
「ふふ、うん。どうしたの?急に。」
あけみはちょっと恥ずかしくなって潤から視線を逸らした。
「いや。急に言いたくなったの。」
「そっか。私も。」
「なに?私も?なに?」
「それ以上は言わない。」
あけみが口を閉ざすと潤は「えー、ちゃんと言ってよ。」とちょっとむくれた。
「ふふ、言わない。」
「じゃあ、言うまでキスしない。」
「えー、いいもん。別に。」
「いいの?絶対しないよ。キス。」
「いいよー。」あけみはちょっと意地悪な顔で潤を見た。
「えー、あけみとキス出来ないのは俺が困る。」
「もう、潤はキスしたいだけじゃない?」今度はあけみがむくれると潤があけみの唇を塞いだ。
そのまま二人は夜の波にのまれていった。
――――――
あけみは潤の姿が見えなくなるまでベランダから手を振った。
手を振るあけみの左手には指輪が光って見えた。
「行ってらっしゃい、潤。」
小さくもう一度言うとベランダから部屋へと入った。
リビングの棚には二人が白い衣装を着て写っている写真が飾ってあった。
眩しい日差しの中を歩く潤の左手にも指輪が光っていた。
二人の未来はこの先もずっと続いている。
ずっと。
完