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バレンタインのその日、俺はみんなと別れると大学の図書室に行った。
ちょっと調べたい事があり、一人本を読んでいた。
『翔くん。』
小声で呼ぶ声がして、俺は声のする方へ顔を向けた。
隣にあかりが座っていた。
『えっ?いつの間に?』
俺は驚いてあかりを見た。
『翔くん、気付かないんだもん。』
『本に集中してた。』
『真剣に何やってたの?』
『もう、卒業も近いし論文の調べもの。』
『そっか、もう卒業しちゃうんだよね。』あかりはちょっと寂しそうな顔をして俺を見た。
『それより、どうした?』
あかりは、鞄から小さな箱を取り出した。
『これ。』あかりは、その小さな箱を俺の目の前に差し出した。
『?』
『チョコだよ。』
あかりは、はにかむように笑う。
『そっか、あかりのバレンタイン恒例のチョコか…』
俺はその小さな箱を自分の鞄にすぐにしまった。
『サンキューな。わざわざ届けに来てくれたんだ。』
『中見ないの?』
『中?今、ここで?図書室だよ。後でね。』
『そっか…だよね。』あかりはどことなく寂しそうに見えた。
『あのね、言っておくけど、手作りだからね。』
あかりは俺の顔を覗き込む。
『へぇー、仲間には手作りにしたんだ。さすがだね。テツヤも喜んでるんじゃない?』
『翔くん、手作りは翔くんにだけだよ。頑張ったんだから。』
『俺だけ?』
『手作りって言うのは大事な人にだけなんだって。』あかりの言っていた言葉の意味があの時は理解出来なかった。
『えぇっ、何言ってんの(笑)』
俺は、卒業に向けての準備の事で頭がいっぱいだった。
『だから、翔くんは大事な人って事だよ。』
『3年間、ずっと一緒だったもんな。仲間っていいよな。』
俺は、とんちんかんな事をあかりに言っていた。
『もぅ、本命チョコなんだって。』
『はっ?あかりさ、冗談やめろって。テツヤが泣くぞっ』
『テツヤは、リエでしょ?』
『えっ、そうなの?』
『もう。翔くん、鈍すぎ。』
『まぁ、いいや。どうせ義理チョコだろ。あとで食べっから。サンキュ。』
今、思えばあれが告白だったのか…。
なんて鈍いんだ、俺。
俺は、バスに揺られながらぼんやりと思い出していた。
自分の不甲斐なさに思わず笑ってしまう。
情けな…。
俺…。
あかりは、精一杯気持ちを伝えたんだろうな。
俺は、相手にもしていなかった。
俺があかりを好きだと気づいたのは卒業してからだったな。
そばにいすぎて気付かなかったんだ。
俺は、バスに揺られながら徐々に眠りに落ちていった。
続く