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二人は手を繋いで寒い夜道をなんとなく黙ったまましばらく歩いた。
河原へ着くと「懐かしい」と優衣が言った。
「変わってないね。」そう言いながら優衣は外灯の下のベンチに座った。
河原は思ったよりも風があって寒かった。
「久しぶりに来たけど変わってない。」二宮もそう言って優衣の隣に座った。
「やっぱり寒いね。」優衣は寒そうに背中を丸めた。
「大丈夫?これ着なよ。」二宮は自分の上着を脱いで優衣の肩にかけて優衣の肩を抱いた。
「ありがとう。」優衣はそう言って二宮を見つめると微笑んだ。
「今日は星が綺麗~」優衣は空を見て言った。
「本当だ。」二宮も空を見上げた。
しばらく二人は空を見上げていたが「カズちゃん。」と優衣が口を開いた。
「ん?なぁに?」二宮は視線を空から優衣に向けた。
「私がいる場所はあの辺。」優衣はそう言って空を指さした。
「えっ?何?」二宮は不思議そうに優衣の指さした方を見上げる。
「…うん、私が帰る場所。あの星…」
優衣は、二宮に微笑みかけた。
「えっ?!優衣?」
「ごめんね。もっとたくさん話したかったけど、ずっと一緒にいたかったけど、もう時間切れ…」
二宮は一瞬自体が飲み込めなくて、優衣を見つめるだけだった。
「カズちゃん?」
「…えっと、ごめん…優衣、時間切れって?」
「私、帰らなきゃいけないみたい。カズちゃんといた時間、楽しかった。短い間だけど楽しかった。」
優衣は二宮を真っ直ぐに見つめてそう言った。
「なんで…?まだ、まだ…もう時間切れだなんて…」
二宮はどうする事も出来ず、気持ちが砕けそうなのを堪えるのに必死だった。
「カズちゃん、ありがとう。」
優衣は二宮を見て微笑んだ。
二宮は優衣をギュッと抱きしめた。
「優衣がいつも冷たい理由がわかった。」二宮は優衣の肩越しに小さな声でそう言った。
「ふふ、カズちゃんはいつもあったかくて心地よかった。」
「優衣…」
「何?」
「好きだよ。」
「うん。やっとカズちゃんからその言葉が聞けた。」
優衣は二宮から体を離すと嬉しそうに微笑んだ。
「もう、思い残す事はないよ、本当にありがとう。大好きだよ。カズちゃん。」
優衣は真っ直ぐに二宮を見つめてそう言った。
「優衣…」
二宮は優衣の顔に近付くとキスをした。
唇をそっと離すと優衣は優しくはにかんだ。
「幸せな時間だった。私、幸せだった。」
そう言った時 強い風がビューっと吹いた。
二宮は思わず両手で顔を覆うように風をよけた。
風はすぐにピタッと止んだ。
二宮が隣に座っていたはずの優衣を見るとベンチには優衣が羽織っていた二宮の上着だけがあった。
「優衣っっ!!」
二宮は一瞬状況が飲み込めず辺りをキョロキョロと見回して「優衣、優衣」と叫んだ。
その時もう一度風が吹いて優衣が羽織っていた二宮の上着に落ち葉が乗った。
もう、優衣は帰る場所へと帰ったんだと二宮は悟った。
続く