30
優衣は泣いていた。
確かに俺の前にいる。
「優衣?」
俺はベッドで布団を被って泣いている優衣に声をかけた。
「カズちゃん…」
布団の中からかすれた優衣の声が聞こえた。
「優衣、もういいから出ておいで。」
優衣はそっと布団から顔を覗かせた。
「優衣?泣かないで。」
俺はそっと優衣の頬に流れる涙を拭った。
「カズちゃん、私ね。帰らないといけない。」
優衣はベッドから起き上がると俺の首に手を回して抱きついてきた。
俺もしっかりと優衣の腰に手を回した。
「帰るって?」
「私がこの世からいなくなって、カズちゃんが苦しんでるのが見えた。」
「俺が?」
「そう。私は辛かったの。カズちゃんのせいじゃないのに私が悪いのにって。だから私は神様にお願いしてカズちゃんの記憶から私を消してもらった。」
「俺の記憶を?」
二宮は優衣から体を離して優衣の顔を見た。
「ごめんね、カズちゃん。私はカズちゃんが苦しむ姿を見たくなかった。向こうの世界からずっと見てた。でも、辛そうで…どうする事も出来なくて…だから私の記憶を消してもらった…」
優衣は二宮の顔を真っ直ぐに見つめた。
二宮も真っ直ぐに優衣を見つめ返した。
「ごめん…優衣がそんなに苦しんでたなんて…」
「カズちゃん…私…そろそろ時間かも…」
そう言うと優衣は小さく微笑んだ。
続く