9
歩いている内に茜色の空が少しずつ闇に包まれて紺色に変わった。
立ち止まると涙が溢れそうになる。
なんでだろう。
智くんも、私を好きだったってこと?
会えなくなるのは嫌だなんて。
やっぱり素直になれば良かった
。
もう会うことはないんだよね…?
私はタクシーを拾うことなく自分のアパートまでトボトボと歩いた。
どのくらい歩いたのか、自分のアパートまで辿り着く前に疲れてしまった。
もう、歩けないよ。涙はどんどん出てくるし。何やってんだろ、私。
タクシー拾えば良かった。
歩いてる途中に見えた公園に入ってベンチに座るとiPhoneを取り出して電話を掛けた。
―どうした?
電話の相手が不機嫌そうに返事をした。
―潤くん、怒ってる。
―怒ってないよ、どうしたの?
潤くんは、溜め息をつきながら言った。
―やっぱり怒ってる。
―ちょっとね。どうせ、大野さんの事だろ?
―うん。。
―何?どうせもう会えないとか言って泣いてんだろ?
―へ?なんで分かったの?
―さっき、智くんからも電話があってさ。もう会えないとか言って振られちゃった、って。
なんで?なんで振ったの?
素直になれって言っただろ。
―だって。
―好きなら好きでいいんじゃないの?
アイドルだから、とか、住む世界が違うとかさ、関係ないんじゃないの。
だって、お互い好きなんだから。
でしょ?
私は潤くんの言葉を聞いて泣いてしまった。
やっと涙が引っ込んだのに。
お互いの立場が違うとか智くんがアイドルだからとか、そんな事ばっかり考えていた自分がバカみたいに思えた。
自分の気持ちを大事にしてあげなきゃ、そう思った。
そうだよ。好きなら好きって言えばいいんだ。
どうして、もう会えないなんて言っちゃったんだろう。
―潤くん、私、もう大丈夫。やっぱり戻るね。
―トモ、頑張れよ。
―うん。
潤くんとの電話を切ると私は今 来た道を引き返した。