帰宅した私は

 

開口一番

 

夫にこう言った

 

これから私は自分で稼いで生きていく

 

だからこの離婚届に判をつけ、と

 

夫はとりあえず私が寝泊まりしてる店を引き払うから

話はそれからだ、と言った

 

幸い穏便に引き払うことが出来た

 

夫は黙って私の手を引き

家路を歩いた

 

その背中は泣いているようだった

 

ネオン街の明かりの中で

 

しっかりと握られた温かい手の温もり

 

私の目にも次第に大粒のなみだが溢れ

視界がかすんでいた

 

30歳の夏だった