350 第10章 資本所有の格差
· ここからは、富の格差その歴史的変遷という問題に目を向けよう。
· 資本/所有比率が高まり経済成長が低下している中で、資本所有権が再び集中しつつある。
· 350 極度に集中する富-------ヨーロッパと米国
· 富の分配、つまり資本所有の分配、は労働所得の分配よりずっと集中している。
· 貧しい下半分は実質的に何も所有してない、だいたい国富の5%程度。トップ十分位は、大半を所有している、つまり 60から90パーセントを所有する。残りの人口40パーセントは富の 5から35パーセントを所有する。世襲中流階級は、国府の ¼から1/3を所有する中間集団だ。この中流階級の出現が、長い目で見たとき富の分布を左右した最も重要な構造変化であることは間違いない。
· なぜこの変化が起こったのか。フランス、イギリス、米国、スウェーデンについて詳しく検証。
· 351 フランス-------民間財産の観測所
· 貴族に対する税制上の優遇が廃止された直後の 1791年、相続税と贈与税が財産登記簿とともに確立された。フランスの相続記録は2世紀にわたる富の蓄積と分配について詳細な形式を与えてくれる。
· 353 世襲社会の変質
· 357 ベル・エポック期のヨーロッパの資本格差
· 18と19世紀そして第1次世界大戦前夜までの富の集中が、ヨーロッパ全体の現象だった。
· トップ 十分位(10パーセント)は国富の約80-90パーセント、トップ 百分位(1パーセント)は 50-60パーセント程度を所有していた。
· 362 米国における富の不平等
· 1910年の米国での資本格差はかなり高くなっている。トップ 十分位(10パーセント)は国富の約80パーセント、トップ 百分位(1パーセント)は 45パーセント程度を所有していた。
· アメリカの上位10%の所得階層が国全体の所得に占める割合は、1910年には約50%であったが、第二次世界大戦後は30%程度に低下、2010年には再び50%ほどへと上昇している[10]。アメリカの富の不平等については、1910年には上位10%の富裕層が国全体の富の80%を占めていたが、第二次世界大戦後にはその比率は60%程度に低下、2010年には70%近くに再び上昇している[10]。
· 伝統的に平等主義であった国々(ドイツ・デンマーク・スウェーデンなど)では、貧富の差は1980年代は1-5の範囲であったものが、1-6に広がった[6]。
· フランスのベルエポックで広がった所得・資産の格差は、第一次世界大戦から1970年代までの間に縮小したが、1980年以降、所得・資産の格差は再び拡大して100年前の状態に近づいている[10]。
· 365 富の分岐のメカニズム-------歴史におけるrとg
· 第1次世界大戦以前のほぼすべての社会で富が集中していた第一の原因は、これらが低成長社会で、資本収益率が経済成長率に比べ常に著しく高かった。
· 例えば成長率が年や 0.5から4パーセントと低い世界を考えよう。資本収益率は一般的には年間 4から5パーセントほどなので、成長率よりもかなり高い。具体的には、たとえ労働所得が全くなくとも、過去に蓄積された富が経済成長よりもずっと早く資本増加をもたらす。
· 例えば、g =1パーセントならば、資本所得の 1/5を貯蓄すれば、先行世代から受け継いだ資本は経済と同じ比率で成長する。
· 1820年から1913年のフランスでは、資本収益率rが平均5パーセントで約1パーセント経済成長率gよりも高かった。
· この相続資本の優位性がr > gで説明できる。
· 368 なぜ資本収益率が成長率より高いのか
· 私はこれを論理的必然ではなく、歴史的事実と考えている。その明快な方法は次のようなものだ。
· 経済成長は人類の歴史の大半を通してほぼゼロ。古代から17世紀までに長い間、年間成長率は 0.1から0.2パーセント以下だったといえる。年間資本収益率の長期的な中央値は 4から5パーセントだ。
· 370 図10-10に示したのは、1913年から 50年の資産破壊によるキャピタルロスの推定値を加算した。
· 370 純粋な資本収益率は 1913年から 50年には1から1.5パーセントにまで低下し経済成長率より低くなった。
· 結果的に、20世紀には財政的、非財政的ショックの両方によって、歴史上初めて、純粋な資本収益率が経済成長率よりも低いという事態が生まれた。(戦時の破壊、1914から45年のショック)。
· 図10-10 世界的に見た課税後収益率と成長率 古代から 2100年まで。
· 純粋な資本収益r(課税後、キャピタルロス計上後)
· 世界産出の成長率g
· 373 時間選好の問題
· 経済主体はどのくらい未来を計算入れるかを示す時間選好率によって特徴づけられる。通常、 θ, theta, シータであらわされる。例えば時間選好率 θ =5パーセントなら、その主体は今日100ユーロ余分に消費するため、明日の105ユーロの消費をあきらめるということになる。
· 時間選好率とは、投資家(個人)が現在の消費をあきらめ、将来のために貯蓄するようになる金 利水準のことである。 市場金利は債券の取引等で客観的に決まるが、時間選好率は、個人の現 在の消費と貯蓄(将来の消費)とを関連付ける指標であり、個人の主観によって異なる、いわば 性格のようなものである。
· もし社会があまりにも多くの資本を蓄積しすぎて、資本収益率が例えば年1パーセントくらいにとどまれば、資産を所有する人の大半が家や金融資産を売ろうとするから資本ストックが減って、収益率が上がることになる。
· 375 資本収益率rが成長率gよりも必然的に高くなる理由は次の通り。もしもrがgよりも小さいと将来の所得が、借金の利率よりも早く上昇することを知った経済主体は無限の裕福さを感じることになり、rがgよりも高くなるまでは、すぐに消費するために借金したがることになってしまからだ。r > gがほとんどの標準的経済モデルに当てはまる。疑問:それではr > gをどうしたいのだ。
· 376 均衡分布は存在するのか
· r > gが富の分配動学にもたらす影響を考えよう。g =1パーセントで、r=5パーセントならば、富める人は年間資本所得のわずか1/5を再投資するだけで、資本を平均所得より早く増やせる。
· 377 限嗣相続制(げんしそうぞく)と代襲相続性
· 限嗣相続(げんしそうぞく)という制度です。 親族内で継承順位を定め、1人に限定して相続することで、不動産などの財産が売却や贈与で分割されて失われることを防ぐものです。 女性には相続権がありません。
· 代襲相続とは、被相続人(死亡した人)よりも先に相続人となるべき人が死亡している場合に、相続人の子どもが代わりに相続人になることです。 典型的なパターンは、「親より子どもが先に死亡しているケース」です。 本来は子どもが相続人となるはずですが、子どもは既に死亡しているので相続人になりません。ただし、子どもに子ども(親からみると孫)がいれば、孫が「代襲相続」によって相続人となります。この場合の孫を「代襲相続人」、代襲相続される子どもを「被代襲相続人」といいます。
· フランス革命によって生まれた相続法。代襲相続性と長子相続制の廃止。そして兄弟姉妹間の資産均等分割。限嗣相続制の廃止。
· 379 民法典とフランス革命の幻想
· r – gが大きければ、格差拡大の推進力もそれだけ大きい。
· 382 パレートと格差安定という幻想
· パレートの法則: 格差安定と格差是正努力の無意味さ。売上の8割は全顧客の2割が生み出している。よって売上を伸ばすには顧客全員を対象としたサービスを行うよりも、2割の顧客に的を絞ったサービスを行うほうが効率的である。
· 387 いくつかの部分的説明------時間、税、成長
· 富の集中が1910年から1950年にかけて各国で激減したのは驚くにあたらない。
· ベル・エポック期(主に19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914年)までのパリが繁栄した華やかな時代、及びその文化を回顧して用いられる言葉である)ヨーロッパでの富の集中は、何十年いや何世紀も続いた蓄積プロセスの結果なのだ。
· 390 21世紀------19世紀よりも不平等
· まとめ よう。今日のヨーロッパでは、ベル・エポック期に比べ富の集中が目に見えて減っているという事実の大部分は、偶発的な出来事(1914余年から 1945年のショック)と、資本と、資本からの所得への課税といった個別制度がもたらした結果だ。
392 第11章 長期的に見た能力と相続
· かつて資本といえば主に土地だったが、今ではそれは産業資本、金融資本、不動産資本だ。また富の集中は一世紀前ほど極端ではなったが、いまだに高いままだ。人口の最も貧しい半数はいまだに何も所有していないが、今日では世襲中流階級が国富の1/4から1/3を所有し、かって十分の9を所有していた最も裕福な10パーセントは今やわずか2/3しか所有していない。
· 高度な富の集中の原因である貯蓄。この貯蓄の論理を理解するためには、資産形成における相続と貯蓄の相対的役割が長期的にどう変わったかをもっと見る必要がある。
· r > gということは、過去に創出された富は労働を加えなくても、労働に起因する貯蓄可能な富より自動的に急速に増大する。これはどうしても、過去に生み出された格差、ひいては相続に、持続的で可能な課題な重要性を与えがちになる。
· 394 長期的な相続フロー
· どんな社会でも、富の蓄積する過程は主に二つある。労働と相続だ。
· ヴォートランのラスティニャックへのお説教思い出してほし。
· 19世紀には相続フローは年間所得の 20から25パーセントを占めた。それは何よりも、19世紀社会では相続が構造的な中心を占めたせいなのだ。相続フローは 1910年から1950年の間に著しく減少したが、その後じわじわと回復し、1950年から2010年の間に 3から4倍になった。
· 398 三つの力------相続の終焉という幻想
· 一般的に経済的な相続と贈与の年間フローの国民所得比をさす byは三つの力の積に等しい。
· by=μx m x β:ここでβは資本/所得比率をさし、mは死亡率、μは生存者一人あたりの平均財産に対する死亡時の平均財産の比率をさす。
· 三つの力を一つずつ検証していこう。まず資本/所得比率 βらから。この力は自明の理を表する。ある社会で相続財産フローが高いということは相続可能な民間資産の総ストックもまた大きくなければならない。
· 二つ目の力、死亡率 mも同様に明白なメカニズムを表している。他のすべてが同じなら、死亡率が高ければ高いほど相続フローも高くなる。みんなが永遠に生き続ける社会では死亡者はぴったりゼロになり、相続はなくなる。すると相続フロー byも資本/所得比率 βらがいくら大きくてもゼロになる。
· 三つ目の力、生存者一人あたりの平均財産に対する死亡時の平均財産比率μもまた自明だ。死亡時の平均財産が全体の平均財産と同じと仮定しよう。するとμ=1で、相続フローbyは単純に死亡率 mと資本/所得比率 βの積となる。もしも資本/所得比率が600パーセントで成人人口の死亡率が2パーセントならば、年間相続フローは自動的に国民所得の12パーセントになる。
· もし死亡時の平均財産が生存者平均財産の2倍ならμ =2で、相続フローは、国民所得の24パーセントとなる。
· 403 人口とともに高齢化する富------μ x m効果
· コーホート:(英: cohort)とは、共通した因子を持ち、観察対象となる集団のこと。人口学においては同年(または同期間)に出生した集団を意味する。
· 平均死亡年齢の上昇によって、必然的に相続人の平均相続時の年齢も上がる。μx mは、死亡率が減少してにもかかわらず、ここ数10年で明らかに上昇し始めている。
· 408 50代と80代------ベル・エポック期における年齢と富
· 富の蓄積の動学とμの算出に使用する詳細なデータをもっと理解するには、平均資産の変遷を年齢の関数として検証するのがいい。
· 411戦争による富の若返り
· 戦争はすべてのカウンターを0近くにリセットし、必然的に富の若返りをもたらした。この意味で20世紀すべてを水に流し、資本主義を超克したいという幻想を生み出した。これが、第二次世界大戦後の数十年間の例外的に低い相続フローについての説明だ。
· 413 21世紀には相続フローはどのように展開するか
· 富をため込む理由はいろいろある。老後や失業に備えて貯蓄する人もいる。一族の富を蓄積、維持するために貯蓄する人もいる。富とそれに付随する名声を求める人もいる。
· すべての人々が、持てるすべての富を終身年金に切り替えて、死ぬときはすべてを使い果たしている世界も十分に想像できる。もしも21世紀に、そのような行動が支配的になれば、当然相続フローは成長率や資本収益とは無関係に実質ゼロまで縮小するだろう。
· 416 年間相続フローから相続財産ストックへ
· 相続財産が総財産に占める割合は1970年に増え続ける。
· 2010年のフランスでは、貯蓄によって蓄積した富が民間資本のわずか1/3なのに対し、相続財産は約2/3を占めている。
· 419 再びヴォートランのお説教へ
· 422 ラスティニャックのジレンマ
· ラスティニャックのジレンマとは、勉強と労働で功成り名を遂げ、安寧な生活を得るのが効率的か、資産家の娘と結婚することで相続で不自由しない生活を手に入れるべきか、の二者択一のことだ。
· 423 親から、または配偶者を介して遺産を得た人は、25~30人の家事使用人を生涯にわたって雇える。これに対し、(ヴォートランのお説教にあったように、判事、検事、弁護士といった職業に就いた)労働所得トップ1%の人が持つ資産は、下層階級の約10倍だった。(略)その1%に入るには法学校で良い成績を修めるだけではダメだ。多くの場合、成功の保証のないまま、多年にわたり権謀術数に励まねばならない。こんな状況であれば、もしトップ百分位の遺産を入手できる機会が目の前に現れれば、それを見逃す手はない。
· ある意味でヴォートランが皮肉を込めて描いた(相続が労働よりも有利な)世界と、(労働が相続より優位な、戦後数十年の魅惑の)世界の中間に位置ししている。今期のフランス社会では、相続財産と彼自身の強盗の両方からほぼ同額のれている場合が多い。
· 425 不労所得生活者と経営者の基本計算
· 社会階層の頂点で相続資本所得が労働所得よりも大きな割合を占める社会では、資本ストックとその中の相続資本の割合が大きくなければならない。
· 426 古典的世襲社会-------バルザックとオースティンの世界
· 430 極端な富の格差は貧困社会における文明の条件なのか?
· 本や楽器や宝石や舞踏会用ドレスが欲しければ、当時の平均所得の 20から30倍は稼がねばならなかった。
· この小説の主人公は当時の平均所得の60倍以下で暮らすのは難しいと説くくだりがある。
· 432 富裕社会における 極端な能力主義
· 現代社会の格差の正統性に能力主義信奉がはたす役割は、つまり教育を受けたエリートは、自分たちが厳格、忍耐、勤勉、努力といった言葉を使って表現した。
· 434 プチ不労所得生活者の社会
· 1970年代とそれ以降に生まれたコーホートにとって、相続は生涯総資産の約1/4を占める。
· コーホートとは、同僚,仲間,隊,団などを意味し、同時期に同様な体験を共有する人々の集団のことである。最もよく用いられる例としては出生コーホート(同時出生集団ともいう)がある。
· ドクターハウス、ザ・ホワイトハウス、ダメージ.
· 各コーホートの1/6近くが人口の最下位半数の生涯の労働収入よりも大きな相続財産を受け取ることになる。
· 438 民主主義の敵、不労所得生活者
· 現代民主主義社会は、いつまでも相続財産の存在を許すはずがなく、最終的には死とともに財産所有権が消えるようにするはずだと予言している。
· 普通選挙権の到来と財産に基づいた投票資格が終わったことで、金持ちによる政治の合法的な支配はおわった。でもそれが、不労所得生活者社会を生み出しかねない経済力を無効にしたわけではない。
· 441 相続財産の復活-------ヨーロッパだけの現象か、グローバルな現象が
· フランスの相続財産の復活に関するこの結論は他の国にも当てはまるのか、明確な答えは出せない。
続く