高校生のとき、大駱駝艦(暗黒舞踏のグループ)の舞台を観て、舞踏合宿に参加したのをきっかけに、豊玉伽藍(大駱駝艦の根城)に出入りしていたことがあり、台所でダンサーたちのための食事作りを手伝ったことがある。団員ではないが、「ケイコさん」という面倒見のいい女性がいて、食材を買ってきて、打ち上げにそなえ、大きな鍋でいろいろ料理をしていた。「ケイコさん」はゴールデン街でお店をやっていて、そのお店の名前は「ハバナ」というのだ、という話をしていた。そして、いまあなたみたいな女の子がアルバイトに来てるよ、と言っていた。
 それから2、3年後に、アクティング・ゼミナールで知り合ったエコという年上の友達に、「今日、私、アルバイトしているバーの開店準備、まかされてるの。手伝ってくれない? お客さんが来たら帰っていいから」と言われて、ついていったらゴールデン街の「ハバナ」というお店だった。エコはスーパーに寄って買出しをした。一袋10円のもやしをたくさん買って、ゆでて味付けをしてお通しを作った。エコがもやしにごま油や塩、お酒、砂糖、豆板醤などを加えていって、「どう」と私に味見させた。エコがバーのママの「ケイコさん」の話をした。「わたし、ケイコさん、知ってるかもしれない」と言ったらエコは驚いていた。でもケイコさんが「あなたみたいな女の子がアルバイトに来てる」という話をしたことは黙っていた。エコはずいぶん長いことハバナでアルバイトをしていると言っていたが、その女の子はエコのことかもしれないし、そうでないかもしれなかった。
 フロリダのフェスを聴いたあと、「おとたび」のたましひは海を渡ってキューバへ。そして、キューバの首都ハバナへ。「ハバナ」、と口に出してみたら、ケイコさんとエコのことが蘇った。「ハバナ ゴールデン街」で検索してみた。すると、新宿ゴールデン街の「ハバナムーン」という店には伊藤恵子さんというママがいて、「天国注射〜」のイベントは彼女の力で始まり、続いた…ということが書いてあるブログをみつけた。「天国注射」についても検索したら、大駱駝艦の宇野萬も参加していたイベントなので、いよいよ、「ハバナムーン」はきっと私の記憶では「ハバナ」になってしまっている店のことに違いない、と思った。
「ハバナムーン」を検索すると、ローリングストーンズの2016年のライブが出てくる。ハバナにツアーに行ったライブのことだ。でも、ゴールデン街の「ハバナムーン」のお店の名前の由来はたぶんチャック・ベリーの「ハバナムーン」という曲だろうな、と推測する。チャック・ベリーが腰をかがめて歩きながらギターを弾いている本人映像でもあったら、と思ってさがしたけど、静止画しかない。ジョージ・ベンソンの歌っているのがいいな、と思ったので(歌詞が付いてるし)、今日はこれを聴いてほんの一瞬だけ過ぎた日のことを思い起こしてみよう。