さて、「おとたび」のたましひは、今日パリの空港で天才ジュース・ワールドをそっと見送ったあと、フランスのヒップホップを聴いてみようと思っていたのです。どこへ行ったらいいでしょう。
 こういうときは、インターネットであんちょこサイトをのぞいてみよう。検索すると、クイック・ジャパン・ウェブに興味深い記事がありました。パリに留学中でムスリムの研究をしている山下泰幸さんに川口ミリさんがインタビューして、最近のフランスのラップの傾向を尋ねています。最近と言っても、記事が掲載されたのは2017年の1月ですけどね。
山下「最近よくアフリカ系のアーティストが自身のルーツであるアフリカ音楽を採り入れた曲がヒットしています。こうした曲の人気が今ほど高まるのは史上初だと思います」
--例えば?
山下「(たとえば)…MHD(エムアッシュデ)。セネガルとギニアがルーツの21歳で、アフリカ音楽とトラップ(ハードコア・ラップの一種)のMIXの新ジャンル『アフロトラップ』を生み出し、一躍有名に…」
「アフロトラップ」!それ聴いてみようじゃないの!
「あの、MHDのライブのチケットを手に入れたいのですが」
「おとたび」のたましひは、バックパック旅行者にのりうつって、観光局のインフォメーションセンターに行きました。
 めがねをかけた窓口の黒人女性は、
「MHDなら当分ライブはありませんね。殺人容疑で勾留されていますから」
 え!? 殺人容疑!?
「でも、誰も彼がやったとは信じていませんよ。誰かにワナを仕組まれたにちがいありません。チンピラ同士の喧嘩の現場に彼の車があったと訴えられているんですが、彼はそんなやつらとの付き合いはなかったはずなんです。早く無罪が証明されたらいいのに! みんな彼のライブを楽しみにしているんですから!」
 窓口の女性もMHDのファンなのだった。
「おとたび」のたましひは、彼の代表的なアフロトラップの曲、「A KELE NTA」を聴くために、2016年まで時間をさかのぼり、セネガルのダカールに着きました。踊りながら、歌いながら歩いている人々の中心で、MHDがラップしていました。
 なんだかこれ、聴いたことがあるみたいだ。ガリフナ音楽に似ているぞ! そうか、ガリフナ音楽もルーツはアフリカだから、似ているのは当たり前なのか。