昨日はホンジュラスのテレビ局でアウレリオ・マルティネスとイブリドゥス・ジャズの演奏を聴いた。アウレリオの音楽をもっと聴いてみたいと思って、「おとたび」のたましひがそっと跡をついていくと、飛行機に乗って、また北米に来てしまった。こんどは首都のワシントンD.C.だ。アウレリオと仲間の3人のミュージシャンは、「NPR」という看板のある建物に入っていった。
 NPRを検索すると、ナショナル・パブリック・ラジオの略で、アメリカ合衆国の公共ラジオだということがわかった。4人はラジオ局のスタッフと一緒に事務所の中の本棚に囲まれた書斎のような部屋に入っていった。これから始まるのは「タイニー・デスク・コンサート」だという。それ、なんでしょう?
 書斎には音響装置も照明もない。観客もいない。あるのはマイクだけ。簡素な無観客ライブ。まるでCovid-19感染対策の先取りみたいだが、出演者はベテランも若手も世界的なミュージシャンばかりで、動画で配信されるたびに大きな反響を呼んでいるそうだ。
 アウレリオがギターで弾き語りをしたのは、『Landini』というアルバムから表題作と、「Funa Tugudirugu」「Nari Golu」の3曲。曲のあいまにも語っているが、アウレリオの音楽にはジャンルというものがない。ロック、ジャズ、ポップス、ワールドミュージック、アフリカ音楽、すべてを融合させてしまう。それもごく自然に、すべての水滴が同じ川の流れになるみたいに。
 ホンジュラスの黒い川がカリブ海にそそぎこまれる、電気のないガリフナのプラプラヤという村で、シンガーソングライター・ギタリストのアウレリオは育った。母の膝の上で聴いたガリフナの歌が最初に出会った音楽だった。そして、コミュニティーの中で、楽器を覚え、音楽の担い手となっていく。
「Landini」は彼を育てたガリフナの土地と人びとのことを歌っている。これは純粋に「ガリフナ」の音楽である、とアウレリオは言う。この音楽の真髄は自分の血と肉になっている「ガリフナ」そのものであると。
「世界を旅することは、私の芸術家としての力、文化の力の根源は故郷の村のガリフナ・コミュニティーにあるのだということを、教えてくれます。旅を重ね、世界を知れば知るほど、私は故郷に戻って自分のルーツとなるものとまたつながりたいという欲求をおぼえます」とアウレリオは言う。
「私たちが周りをとりまくものを取り込んでいくのはガリフナのあり方ではごくあたりまえのことです。そうやって違う文化とかかわりあい、ガリフナはこれまで文化的に発展してきたのです」
 アウレリオの言葉は、その音楽を聴くことによって説得力を増す。ユッスー・ンドゥールのアフロポップス、Paul Naborのプンタロック、イブリドゥス・ジャズ、そしてもちろん伝統的なガリフナ音楽、すべてがアウレリオ・マルティネスの大きな川のような音楽に融けて流れていく。それはすべてガリフナのルーツ、アフリカとカリブ先住民の血を水源としている。アウレリオの音楽は枯れない泉から流れてくるのだった。