--ソン・ハローチョは共有し、喜び、楽しむための音楽です。
「Hilo Transparente」という2018年のソン・ハローチョを主題にしたドキュメンタリー映画に出てくる言葉だ。このドキュメンタリーもYouTubeで全編を観ることができる。
 300年前に生まれ、ベラクルス州で発展した伝統音楽、ソン・ハローチョは、一時期衰退の危機に見舞われていた。もともとソン・ハローチョの演奏は職業的なものではなく、農家でハラーナやレキントを弾く父親が息子に教えることで伝承されたもので、演奏家は朝は農産物を売りに出て、昼は農作業、そして祭りや誕生日会、結婚式などのお祝いがある夜は出かけていって演奏するという生活をおくっていた。演奏してもお金をもらえるわけではなく、お酒をふるまわれるのが楽しみだったという。
 しかし映画によってソン・ハローチョが有名になると、ステージでの演奏が主体になり、昔ながらのファンダンゴはだんだん廃れていった。
 一方、メキシコシティなどの都会に出ていった子供たちは、自分の拠り所を生まれ育った土地の音楽に求めるようになった。ハラーナを探して手に入れて、仲間と演奏するようになり、伝統的なファンダンゴのリバイバルが起こった。そしてそれはアメリカ合衆国のメキシコ移民たちにまで伝播した。
 さらに、ソン・ハローチョのゆりかごであるベラクルス州でもリバイバルが起こり、「移動楽器工房」が子供たちに楽器を配り、ソン・ハローチョの教育が盛んになった。ドキュメンタリーの中で楽器職人は子供たちの教育にかける意欲をこう語っている
--私が取り組んでいるのは演奏し、歌い、楽しむ子供達を育てることです。運命が彼らを音楽家に導くかどうかはまた別の話でわかりません。いま大事なのは伝統を楽しみ伝統の中で生活し、それを自分のものと感じるようになることです。伝統にアイデンティティと誇りを持つことです。「小さい頃から習ったから演奏も踊りもできるよ」と誇りを持って言えるようになってほしいです。
 このようにして、ファンダンゴがかつてのファンダンゴとのつながりをとりもどしているのだそうだ。これからソン・ハローチョの教育を受けた子供達が自分たちの音楽をどう成長させていくか、伝統音楽にとどまらず、新しいものをとりこんで変容していく可能性も含めて、ソン・ハローチョの将来は楽しみだ。