「で、あなたはなんで また、

ここにいるんですか?

櫻井さん?」   



俺の精一杯の嫌味は  

櫻井さんには全く通じない。   



次の日、

昼休みに大野喫茶店にいけば、

また

櫻井さんがいた。





「あ、相葉さんにお礼したいからです。

相葉さんにちゃんとお礼できてないんで、

どうしてもね。

何か、お礼をしたくって。」







はぁ。

ずっと、この調子。


傘を貸してあげただけで、

つきまとわれるとはおもわなかった。



大野喫茶店の俺の席の隣で、

にこにこ微笑む櫻井さんを

きっ  と、睨みつける。



「あのね。

櫻井さん。


あなたに、傘を貸してあげましたけど、

そのあと

ここのランチ奢ってもらってますし、

お礼してもらってますけど?」



ちっちっち。


櫻井さんが人差し指を横に振る。




「いや、俺ね。

昨日、

相葉さんのランチ、

俺食べちゃったじゃないですか。


だから、

ちゃんとお礼してないんですよねー。」





にこにこと、

櫻井さんは話すけど、

その笑顔さえ鬱陶しい。



「もういいですよ。

十分お気持ちはいただきましたって。」



相手は、

商談相手。


こんなことで、

怒らせたら、会社の損失。


そう思ってるけど、

逆に商談が成立したら、

櫻井さんと会うことも無くなるのかと思うと少し寂しくはなる。



「いや、

相葉さんがちゃんと笑顔になってくれるまで、

きちんと気持ちを尽くさないとって思ってるんで。」




俺の焦りや、苛々を

全く理解しない櫻井さん。



助けてと、

目で大野さんに助けを求めても、

大野さんはにこにこと微笑んで、

お盆を持って向こうに行ってしまう。




「相葉さん。

これで、お会いするの4回めですね。


きっと

これは運命なんだって

思いませんか?」




ああ、知ってる。知ってる。

仮面ライダーキバのあるキャラクターの台詞から、

出た名言だよな。




でも、

そんな仮面ライダーのセリフなんて

普通の大人の男である

櫻井さんは知らないだろ?







「もしかしたら、

一度目 偶然 二度 奇跡 三度目 必然 四 運命 ってやつですか?」



まさかと思って聞いてみる。




「その言葉は知らないですけど。」



「え?知らないの?」


虚をつかれた俺が、

びっくりした顔になると、


櫻井さんが笑顔になる。



「でも、それいい言葉ですね。

一度めは偶然商談の場であなたに会った。

二度めは、

雨が降ってきた時に、

奇跡的にあなたに傘を貸してもらえた。


でもね。

三度め必然、四度め運命を、

手繰り寄せたのは俺です。



俺、あなたから笑顔を奪ってんのが、

なんでかは知りませんけど、

俺、あなたの笑顔を見たいんです。



ね?

これからも、

俺、一緒にご飯食いたいですけど、

だめですか?」




はぁ。


何をいってもだめなタイプか。

どんなことを言っても、

こいつはきっとここに通って来る。



この後も

俺が邪険にして、

意味がないことをわからせてやるしかないだろう。






「好きにすれば?」



肩をすくめて返事をしたのに、



「やったあ!」


櫻井さんが、

嬉しそうに両手をあげて叫んだ。





⭐︎つづく⭐︎









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